マンガ誌を半年追ってわかったこと
週刊でも月刊でも、マンガ誌を定期的に買ったことはあるだろうか。
これまでの人生でマンガ誌を買ったことすらなかった、完全なるコミックス派の私が「別冊少年マガジン」を半年間追いつづけた今、思うことを書き留めておきたい。初めては一度しかないからね!
2021年7月 マンガ誌を初めて買う
4月からアルというマンガ情報サービスで執筆をはじめ、勉強のために「最速レビュー」(雑誌発売当日に公開するレビュー記事)を書く業務に就いてみようと思った。
ちょうど空いていた「別冊少年マガジン」の担当に立候補するため、初めて本誌を買った。
この世にマンガ多すぎ
人生初のマンガ誌に緊張しながら1ページ目を開くと、目次がある。そこでまず作品数の多さに改めて驚いてしまった。
情報としては知っていた。でも実際見るとめちゃめちゃ多くない?日本のマンガ誌ってメジャーなものだけでも30誌くらいあるんだよ。いろいろ無視して単純計算で25作品×30誌=750作品!?
WEB連載作品もたくさんあることを考えると、おそらく日本だけでも常に1000以上のマンガが生み出されている。賞をとったり重版がかかったりと多くの人に読まれる作品がある一方で、打ち切られてしまう作品もある。その現実を改めて突きつけられた気分だった。
どう考えてもマンガ家はすごすぎる
こういう話になるといつも、オタキングこと岡田斗司夫さんが「人はなぜマンガを読むのか」という問いに対して話していたことを思い出す。
だからマンガはすごい。マンガのすごさがわかる人は、映画でも小説でもなくマンガを読むのだと岡田さんは語る。
なぜマンガを読むかの話は別として、私もマンガ家の搾り取られ方は異常だと常々思っている。自分でその道を選んだとはいえ過酷すぎる。現行の週刊連載のシステムは近いうちに崩壊するのではないだろうか……。
かなり話がそれてしまったが、これだけ搾取されていながら売り上げによって簡単に打ち切られてしまう世界を目の当たりにした感じがして、目次を見てついマンガ家の生活を憂いてしまったのだった。
とにかくマンガ、修行の日々
2021年8月6日発売の9月号から、実際に最速レビューを書くことに。
これが初めて書いた最速レビュー。表紙の『オリエント』など未読のコミックス計17巻を事前に読み、単行本化未対応分はマガポケで追って挑む。
完結したばかりの『進撃の巨人』もフルカラー版での再掲載が続いており、未読だったので「この機会に」と急いで約1週間で全34巻読んだ。この期間はマジでマンガを読むことしかしてなかったな……。
そんな感じで半年間、毎月ピックアップする作品を第1巻から最新巻まで買って追いかけるのはかなり修行じみていた。読みたいマンガとは別に毎月20〜30巻程度のノルマがある感じ。
実際は、巻数の多さよりも好みでないマンガも読まなくてはいけないことのほうがキツかった。世界観がフィットしないマンガは内容が全く入ってこない。正直マンガを読むのがこんなに苦痛だったのは人生で初めてだった。
マンガ誌のちょうどいい読み方
マンガ誌を毎号買っていても、私のように根詰めて全作1話から追う人は少ないと思う。ラランドのニシダもすきなやつ+αだけらしいし。
買ったからといって載っているものを全部読まない。一人の人間から短期間で搾り尽くしたものを、数作品だけ……そう考えるとなんて貴族的な買い物だろうか。作り手の苦労を考えてしまうとウウッと思ってしまう。
それでも、読者がマンガを楽しめなければ元も子もないのだ。マンガ誌の読み方はきっとそれくらいゆるいほうがいい。
読みすぎると感度が鈍る
そもそも、私の場合どんなにおもしろいマンガでも一気にたくさん読むと感度が鈍ってしまう。すきなタイミングですきなだけ読んでいた頃に比べて、今年は読んだ数は増えたのに涙を流す回数は減った。
マンガ家が身を削って絞り出したものだからこそ、精いっぱい味わいたい。でもこの世に読みたいマンガがありすぎる。このジレンマから逃れることはできないのだろうか……。
単行本よりよかったところ
なんだか悲しい話が多くなってしまったが、マンガ誌を追ってみてよかったこともある。
絶対に出会えなかった作品との出会い
自分が読みたいマンガだけ選んでいると、絶対に出会わないジャンルがでてくる。私の場合、異世界転生ものをはじめとしたファンタジー色の強いマンガや、デスゲーム系、またいわゆる「萌え絵」に近い絵柄のものはあまり好んで読んでこなかった。
だから、別マガ掲載作品をすべて追うことでたくさんの発見があった。
なぜ自分がそれらの作品を好まないのか
それらの作品のファンはどこに惹かれるのか
それらの作品の作者が表現したいこと など
くり返しになるが、情報として知っていることと実際に体験することでは、知識の質がまったく違う。自分が選ぶ作品とそれ以外の作品を隔てるものは何なのかを考えるヒントをもらえたのは、大きな収穫だった。
単話だからこそ着目できること
単行本でマンガを読むと(特に数巻一気読みすると)、どうしても物語としての全体像に目が行ってしまう。ひとコマのセリフや絵の細やかさ、表現技法をいちいち拾って感動できるのは、雑誌で読む特権かもしれない。
そこかしこに小ちゃいコメントがある
また細かい点だが、次回予告・マンガの隅・巻末などに作者のコメントや編集者のつけたアオリが載っている。これは単行本では消されてしまうのだが、作り手の「ここが見どころ!」という思いやちょっとした工夫が伝わってきて味わい深い。これもマンガ誌を読むおもしろさのひとつだと思う。
「別冊少年マガジン」ですきな作品
最後に、別マガを半年間追った現時点ですきな作品を挙げたい。
押見修造『おかえりアリス』
別マガ担当に手を挙げるきっかけとなった作品。最速レビューでも毎号取り上げ、単行本発売の際にはレビューも書いた。押見修造先生の自己論的人間考察の集大成であり、絵描きとしても至高の域に達した作品だと思う。
荒川弘『アルスラーン戦記』(原作:田中芳樹)
戦記ものは古風で難しいセリフ回しや人名・地名で突っかかって世界に入り込みきれないことが多いが、マンガ表現のうまさと物語のおもしろさでスイスイ読めたマンガ。出てくる仲間がもれなくいいヤツ。
その他、『菌と鉄』や『ダイロクセンス』あたりがこれから楽しみ。ポスト押見作品(内省系青春マンガ)として期待していた『金の糸』が12月号で打ち切りになってしまい、悲しかった……。
以上「別冊少年マガジン」と過ごした半年間の記録。これからもいろんなマンガがそれぞれの場所で輝きつづける世の中であることを願って!
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