初恋リバイバル〜解離性健忘で自担の記憶を失くした話〜
あんなに好きだった君のことを忘れてしまう日が来るなんて、誰がいつ予想しただろうか。
11月12日、私は布団に寝転んでYouTubeを見るといういつもの夜のルーティンをこなしていた。そんな時、私の元に一通のメールが来た。活動休止していたメンバーが戻ってくるという内容だった。彼の直筆メッセージを見て、嬉しくて涙が出た。リビングにいる母に伝えに行くために部屋を出て、涙ぐみながらことの経緯を伝えた。
満足して、部屋に戻った。頭の中はHey!Say!JUMPとこれからのことについていっぱいだった。いっぱいだったはず、だった。
部屋の引き戸を開けて、鳥肌がたった。
そこには知らない人の顔がたくさんあったからだ。
言葉を失った。呆然として、うちわやハンガーを見て、やっと出た一言目が「だれ…?」だった。
私は、あんなに大好きだった彼のことを忘れていた。いや、正確に言うと彼の存在は覚えていて、ライブに行った記憶も何もかもあるのだが、「彼を好きだった記憶」が、ストンと自分の記憶の中からなくなっていた。
私は慌てて携帯を見た。彼の写真がたくさんあり、ライブ会場の写真もたくさんあった。そこで私は楽しそうに笑っている。なぜこんなに楽しそうなんだろう。思い出せない。
部屋には彼の写真やうちわが山積みにしてあった。私にとって本当に大切な人なんだということはわかった。でもその感情も、彼の声も、顔も、好きだったところも、好きだった感情の何もかもを思い出せなかった。
Googleの検索ボックスに「記憶 なくなる 突然」と調べてみた。トップに出てきたのは「解離性健忘」と言う言葉だった。ストレスなどの心的要因や心的外傷によって一時的に引き起こされるもの、と書いていた。
「早ければ数時間、長い人だと数十年間記憶がなくなったままになります。」
この文言に言葉を失った。私はもう、彼のことを思い出せないのかもしれない。そんな恐怖が私を襲った。
次の日、私は彼のことを思い出せない不安を抱えたまま、YouTubeの shorts動画を見ていた。何気なくスクロールしていると、一本の動画が出てきた。Hey!Say!JUMP「我Ineed you」の伊野尾慧のセリフまとめだった。
「その唇奪っちゃっていいですか〜?」(いいですよ〜!)
いいですよ〜!と反射的に口から溢れた。その瞬間だった。彼の好きなところが、まるでコップから溢れた水のような勢いで、ブワァッと脳裏に広がった。彼の声が、耳元で響いた。我Ineed youのセリフは、私が初めて聞いた彼のセリフで、数ある彼のセリフの中でも1番好きなものだった。
ああ、そうだった。私この人が好きだったんだ。と、記憶が蘇った。涙が溢れた。心の支えだった人を、私はまた思い出した。
いや、違う。これは2度目の初恋だ。彼は私を2回も恋に落としたのだ。私は、私が思っているよりも、そして彼が思ったよりもずっと、彼に魅せられている。そう感じた2日間だった。
忘れても、きっとまた彼が思い出させてくれる。私と彼とは、またきっと出会える。そう信じて、私はまた彼との思い出を紡ぐのである。