「壊して?」

 最近人間関係の中の恋人という存在の違和感に耐えられなくなっている。基本1人行動が好きだし、邪魔されたくないし、ああだこうだ言われたくないし言いたくないから、どんなにいい感じになった人とも恋人にはなれなかった。
 自分の心の奥深いところにある芝生の霜柱を、誰かがサクリと踏んだ音が聞こえた時、とてつもない警戒心と恐怖が生まれる。と、同時に快感を覚えてしまうのだからもっと怖くなる。

 「可愛い」「好きだよ」「愛してる」そんな甘い言葉はドラッグのように脳を麻痺させ、蕩けさせ、甘い声となって口から溢れ、手足がびくびくと痙攣するのがわかる。自分の「理性」が砕けて、どんどん動物味を帯びていく自分の筋肉の動きに耐えられなくなって、無理やり相手を突き放した。
 手を握られた時も、頬に触れられた時も、口づけようと顔を近づけられた時も、私は最後まで理性を持っていた。ひび割れた琥珀糖のような感覚だった。

 いつも飲み屋で遊んでくれる彼は、恋人の前ではかなり動物だった。褒めている。まっすぐ、欲求を満たしている。他の人間だってそう。恋人の前で皆が無防備になっている姿を見て、私は琥珀糖のジュクジュクした部分がどんどん掻き乱されるのがわかった。
 自分の理性とプライドは、そこが蕩けることを許さない。だから、心臓がグチュリと音を立てるたび、孤独を実感しそれを正当化していく。
 貴方を見るたび本当は掻き乱されている、貴方の前で砕けることを自分が許せないだけでさ。

 何年も蓄積されたそれは、歯が溶けるほど甘く、腐りやすくなっている、


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