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『自立』していくために知っておきたいこと。

『パン生地の粉と水の比率は、自分で見つけていくんだよ。』

いつかのレッスンでイリヤンが生徒さんに言っていたことです。感覚は自分で養っていくものなんだよ、ということが言いたかったんだと思います。

基本的なパン生地の作り方を教えることはできても、水と粉の微妙なRATIO(比率)や、それをこねたときの感触までは、作ってる本人にしかわからないことです。何度も繰り返し作っていくうちに、ベストなバランスやその感覚が掴めてきます。

加水量によって、パンの出来上がりが変わるだけでなく、パンの種類まで変わります。ベーグル、バゲット、ふわふわ食パン。同じパン生地を作るのでも、どんなパンにするのが良いのか、どんなパンにしたいのかでもバランスが変わってきますね。その時々の、季節や環境によっても、微妙な違いが生まれるだろうな、ということも想像できます。

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音楽でも同じようなことが言えるんですよね。

ツール(食材)を使って美味しい料理を作るのが料理人。
ツール(楽器)を使って美しい音楽を奏でるのが音楽家。

歌手で言えば、レッスンでは、まずはツール(楽器)の使い方とその機能について教えるところから始まります。喉の使い方、体全体の使い方、それによってどのように声が機能するのか。

ツールの使い方によって、生まれるサウンドも変わります。暗いサウンドから明るいサウンド、軽いサウンドから重いサウンドまで。楽器には、彩り豊かなサウンドを生み出せる機能が内蔵されているんですよね。

そこで楽器を機能させるために必要なのが、RATIO(比率)です!!

歌手の場合、喉の筋肉の、どの部分を使うかによって、どんな音色が引き出されるかが決まっています。全ての筋肉に正式名称があるのですが、音色と結びつけてわかりやすいように、私は『ファルセットマッスル』とか『チェストマッスル』と呼んでいます。

文字通り、ファルセットの響きを作るのが『ファルセットマッスル』。チェストボイスの響きを作るのが『チェストマッスル』といった感じになります。他にももっと細かな筋肉たちが連動しているのですが、この二つがメインになります。

そして、どの筋肉をどれだけ使うか、というRATIO(比率)こそが、声の技術の本質なんです!!

ここで、それらの筋肉は単独では機能しない、という自然の摂理があります。筋肉たちは綱引きのように、お互いが引き合う力を利用して、バランスを取り合っているんですよね。

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ファルセットマッスルを引っ張るためには、その相手となるチェストマッスルにも反対側から引っ張ってもらわなくてはいけません。

お互いの引き合う力のRATIO(比率)、つまりどちらをどれだけ引っ張るかで、サウンドの色が変わってくる、ということです。ファルセットマッスルを優勢にするのか、チェストマッスルを優勢にするのか、そのRATIO(比率)を変えることで、いろんな表現が可能になります。

声の技術を磨いていくということは、この微妙な筋肉バランスの感覚に慣れていくことなんです。

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レッスンでは、先生と生徒さんが一緒にキッチンに立って、ツールの使い方、料理に合った美味しい素材の選び方、その調理までを実際に一緒にやってみる。そんなイメージがわかりやすいと思います。

先生がキッチンの外側から、『なんか不味いな。もっと甘く、もっと旨味を出して。』と指示だけ出しても、生徒さんは何をどうしていいかわかりませんよね。それだと、いつまで経っても美味しい料理が作れるようになるとは思えません。

基礎を教えるのが先生の役目です。最初は、先生と生徒さんが一緒に練習する必要があります。先生に補助してもらいながら、一緒にやってみることで、少しずつ感覚を掴んでいきます。

そこから自分で実際にやってみて、その感覚を覚えていくのが『練習』なんですよね。先生に教わったレシピをもとに、自分で実験と研究を重ねながら、バランスを覚えていくことが大事なんです。

それによって磨きがかかるのが、センシティビティ(感度)です。

感度が高まっていくことによって、自立できるようになります。
それはつまり、その音楽に合った表現を自分で選べるようになり、体(楽器)を使ってそれを表現できるようになる、ということです。

センシティビティを高めていくのは、生徒さんの仕事です。こればっかりは、人から教えてもらえることではありません。いつまでも受け身で、言われたことをただやっているだけでは伸びていけない、という理由はここにあります。

どれだけ自分の感覚と繋がっていけるか。自分自身と繋がっていけるか。

自分の体や心を繊細に感じて、観ていくことは、音楽家として自立していくために大事なことです!

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