先生が立ち入ることができない領域
先日お義父さんが、イリヤンが指導している生徒についてこう尋ねていました。
『それで、彼は音楽が感じられているの?』
こういうときのお義父さんの言葉は、いつも核心をついています。
良い指導者というのは、生徒の才能の有無に関わらず、ある程度のところまでは引き上げることができます。1から10まで全て教え込めば、それなりに曲を演奏できるようにもなります。
そのイリヤンの生徒さんも、イリヤンの指導によってサウンドが大きく変わりました。そして、今までの彼だったら到底演奏できなかったであろう曲も、ある程度の形にまで仕上げることができました。
そしてそのためにイリヤンは、一流音楽家が曲の中でコッソリやっている秘技を、彼ができるようになるまで教え込んでいました。音の始まり、音の膨らませ方、ここでこれだけ間を持たせて、ここで音楽を一気に前に進めて、ここで音色を変えて…。細かな技術や音楽表現まで全てです。
一流指導者の手にかかれば、どんな生徒でも上手になります。
ここでもう一度、お義父さんの言葉に戻ります。
『彼は音楽が感じられているの?』
それに対してのイリヤンの答えは、『わからない。』でした。
音楽を感じる力、こればっかりは先生が立ち入ることのできない領域です。立ち入ってはいけない領域とも言えます。それは生徒さんが自らで養っていかなければならないものだからです。
生徒さんの中に感じる力がなければ、他の曲をやるときには、また1からやり直しになります。先生は四六時中生徒につきっきりというわけにはいきません。毎回毎回、曲が変わるたびに1から10まで全てを教え込むことは不可能です。
そこで必要なのが『テイスト』です。テイストとは、良い音楽、良いサウンドを見極められる「感性」です。
最初は、テイストの基礎を構築するために、先生の耳を借りることも必要です。自分より確かな耳を持った先生が「これは良いサウンドだ、良い音楽だ。」と言うからには必ず理由があります。
なにをもって『良い』と定義するのか、それについてを理解した上で、良いものを見極められる感性を自分の中に養っていくということが 、とても大事なことなのです。
『テイスト』は、自分の中の判断基準になります。テイストがあれば、「ここはこんなふうに演奏したい」と、自分で表現を選ぶことでがきるようになります。
技術を教えるのは先生の仕事です。けれども、テイストを磨くのは生徒さん自身にしかできないことです。生まれ持ってテイストが備わっている人など存在しません。テイストとは自らで磨いていくものなのです。
🍀🍀🍀🍀
「技術とテイスト」これらは音楽家にとっての両輪です。
技術がなければ、テイストは磨かれません。テイストが磨かれることで、技術は向上します。
いずれも時間のかかることです。じっくり磨いていきましょうね!
お義父さんの楽曲です。お義父さんはブルガリアのフォーク音楽を芸術の域にまで引き上げた、偉大な作曲家です。