禅プラクティスのすすめ
自分が演奏しているときのモードについて考えたことはありますか?
「演奏モード」というと、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、良い演奏をするためには、そのために必要なモードというものがあります。
そんなモードについてのお話です。
レッスンで間違った音を出してしまったとき。歌詞を間違えてしまったとき。言われたことができなかったとき。
「あっ、すいません。」
と咄嗟に言葉が出てしまう生徒さんは多くいます。
これは外国人に比べて、日本人の多くの人たちに見られる特徴的な反応です。
学校や社会生活などで、『正しくやらなくてはいけない。間違ってはいけない。』というプレッシャーを浴びているうちに、それが多くの人にとっての当たり前の反応になっているのだと思います。
そしてこの反応が、私たちの成長を大きく阻んでいることに、多くの人は気づいていないのではないでしょうか。
人は、プレッシャーやストレスを感じると、本能に沿った体の使い方ができなくなります。その結果、体の機能には制限がかかってしまいます。
『あっ、間違えた!』というときに、呼吸は一瞬止まり、体には無駄な緊張が走ります。
首が硬直し、背骨を経由して、臀筋(お尻の筋肉)、太腿、そして足のつま先にまで緊張は伝達します。
『あっ』というだけの本当に小さな反応が、一瞬にして身体の機能を歪めてしまうのです。
そこで大事なのが、『自分が常に演奏モードで居続ける』ということです。
『なぜだかわからないけど、今日は最初からうまくいく気がしていた。実際にうまくいった。』
そんな経験はありませんか?
そして、そのときの自分の状態を思い出してみると、心が落ち着いた状態ではありませんでしたか?
音楽をするためには、自分の心が整っていなくてはいけません。
それは、どこか冷静であり、自分としっかり繋がっていて、感性が開かれている。そんな状態です。
イリヤンは本番に限らず、リハーサルやレッスン、そして日々の練習においても、常にその状態を保つことが大事だ、といつも言っています。
そしてイリヤンはそれを『禅プラクティス』と呼んで、生徒さんたちに指導しています。
文字通り、心が『禅』である状態で日々練習しましょう。ということです。
リラックスし過ぎて演奏に気合が入らないのでは?と思うかもしれませんが、心が「禅」であるということは、ただボーッと緩んでいるのとは違います。
むしろその逆です。
雑念が取り払われ、心が落ち着いていられることで、今自分がやるべきことがクリアになります。集中し過ぎることもなく、視界が開かれた状態です。
人目を気にしたり、うまくやろうとしてギュッと体に力が入ってしまっていると、この演奏モードには入れません。
少々間違えようが、先生に謝らなくてはならないようなことではありません。レッスンは自分が良くなるためのものです。
たとえうまくいかないことがあったとしても、そこで自分を責めたり、言い訳を探したりしないことです。
できない自分を受け入れることができなければ、変わっていけません。
練習がうまくいってもいかなくても、禅でいましょう。
どっしりと構えて、自分と向き合って、変化を楽しんでみてください。
このモードで居続けることができるようになれば、練習やレッスンで『大胆に、大袈裟に、実験する』ということもより実践しやすくなると思います。
そして、演奏を始める前、演奏を終えた後の時間もとても大切です。私たちは、『クッションタイム』と呼んでいます。
クッションタイムは、心を落ち着かせて、心を整える時間です。
慌ただしい生活の限られた隙間時間に、詰め込むように練習しても、あまり効果はありません。
音楽は、ゆったりとした、余裕のある暮らしのなかで育まれていくものです。
『禅プラクティス』最初は慣れないかもしれませんが、ぜひ取り入れてみて下さい!