SF創作講座6期 第2回梗概の感想(2)

感想の後半です。講義終了から一週間をすぎ、貴重な週末ももはや日曜日です。実作書くつもりの人はすでに書き進めている方が多いと思われ、今頃公開しても役に立たないかもしれませんが、何かの参考になれば幸いです。
(1)のときの、良いところと悪いところを分けるような書き方だとうまく書き進められないようなので、ひとまとめの文章として両面を書くように変更します。

中野真「消えない星屑」

「ハードフォーク」が何なのか分からなかった勢です。私は現代社会についていけてません。スーパーライクも知らないし……
テンポよく進む文体であらすじが語られるので、実作も面白くなりそうって思えるのがいいですね。ときどき「推しは今この瞬間を生きている。明日を生きているわけではない」のようなエモーショナルな文章が差し挟まれるのもうまい。実作ではバーチャルアイドル星野唯子がどれだけ魅力的なのか、きぬたの目にどれだけ素敵に映るのかを読ませてもらえたら最高です。

水住 臨「創造的休暇は突然に」

料理の歴史改変ものとしては、上手く美味しく書いていただけると面白そうです。でも、この話ニュートンは最後には万有引力の法則の発見に至るのですよね? そこに至らなかった、あるいは科学が異なる発展を遂げた世界における料理の未来が夢想できたら魅力的かも、と思いました。

方梨 もがな「二十日鼠が死んでいた。」

アピール文でも誰の視点で書くとドラマチックになるのかという検討の経緯を語られていますが、たしかに、語りとカメラの位置しだいで面白さが変わると思いました。
ラストは人類とアルベールのどちら視点もありな書かれ方と読んだのですが、アルベールから見た人類(それは人類に対する誤解も含むかもしれない)を書かれた方が笑えそうです。

中野 伶理「神はよるべなき声の果」

『陰陽師』の琵琶や笛の話などのように幻想小説の領域にある「音が聴こえない楽器」「神の音」のモチーフを現代に持ち込む試みが魅力的です。しかしながら、人間の聴覚・神経系の問題と、現実の物理現象としての音と神の音の差異の問題を、納得感のある綱渡りで繋げられるでしょうか? 梗概の記述ではやや不安を覚えます。
「振動で音を理解する」という説明と耳の機能がどのように異なるのかが分かりませんでしたし、機械には聴こえず人体にしか覚知できないというのもファンタジー寄りの世界観なら納得するけど、どうなのでしょう? また、超聴覚過敏という概念について、じっさいにある聴覚過敏をどう捉えた上で発展させたものなのかも気になりました。

向田 眞郵「それは小さなバトンだけれど」

アバターが人格を持った存在として立ち回る話という理解で合ってますでしょうか? SFホラーものとして面白く読めるといいなと思います。
法の裁きでないところで問題を解決するという展開が日本的だなと思いました。

岡本 みかげ「穴が空いた日」

穴が空いたという事象の大きさと、ドラマのスケール小ささが合っていなくて勿体無いと思いました。梗概だと、登場人物の他には、この世界に住人がいないような印象をもってしまいます。広がりを感じさせる記述で読ませていただけると良いかも。

櫻井 雅徳「少女の夢」

夢の検閲というディストピアなガジェットが魅力的に書かれ、世界の暗い雰囲気が描かれるといいなと思いました。「黒塗りの夢」は悪夢的。
少子化対策に同性愛禁止を持ち込むなら、異性愛者が極端に減少した社会になっているなどの前提が必要な気がします。
色気のある物語にするということでは、個人的には、少女の欲望を描く描写にいかに男の(作者の)目線を抹消できるかが肝という気がします。異性の欲望のために描かれる同性愛描写に色気があるか、推しの壁になれるか問題。

伊達 四朗「髪がない」

ネタを楽しめるように書かれたら、面白いのかなと思いました。
機械人間がいる世界としては、舞台設定も登場人物の悩みも卑近にすぎる気がして、SFふう日常ドラマが楽しめると、面白いのかもしれませんが。

和倉稜「冷めない鉄の軌跡は円」

タイムマシンを開発しながら個人的な話に終始してしまうのはバランスが悪い気がしたのですが、BTTFだってそういうものだし、ありといえばありでしょうか。出来ることと出来ないこと、病と医学と時間理論の条件がフェアに提示されていくと、引き込まれて読めると思います。扱っている要素が多く複雑に絡むので、読み手は投げ出してしまうかも。

佐竹 大地「神の石ころ、人の一手」

先日、久しぶりにTVの囲碁中継を見たら、AIありきの中継になっていてびっくりしました。
場を制するゲームだと思うので、世界を碁盤の目のように見えるのは違和感なく面白そうです。

花草セレ「梅歌を齧る」

白梅が詠む和歌というのが幻想的。和歌をきちんと読めていないので、ストーリーと歌の中身の絡み、食と歌の絡みがどうなっているか分かっていないのですが、味わい深いものになればいいなと思います。
選出実作、期待してます。

織名あまね「杉田+杉田≒杉田」

タイトルがいいし、出だし1行の掴みが上手い!
途中のドタバタも面白く、楽しく読める作品になる期待があります。作中、「差分が大きくなりすぎるとマージが難しくなるため、やがて喧嘩は収まる」とありましたが、ここで弾ける方向もありかと思いますし、その上で力技で一つにまとめるのもありかと思いました。

多寡知 遊「ぬいぐるみと駆け抜けよう、古代宇宙遺跡」

このプロットのままでいくのであれば、アトラクションであるという落ちに、どれだけ価値を持たせられるのか勝負だと思いました。要は、夢オチと同じことなので。
夢であることに意味があるタイプのフィクションがあるように、アトラクションであることに意味があるフィクションになれば、読後感がいいような気がします。
梗概の文体ですが体言止めは文末ごとに動きが止まってしまうので、あまり使わない方がいいと思います。

柊 悠里「孵らなかった星間文明への鎮魂歌」

AIが先制攻撃禁止を解かれたとしても、先制攻撃の応酬で全滅する未来が待っているのであれば、その選択は取らないのではないでしょうか? AIの知能レベルによりますが。
昔の映画『WAR GAME』でコンピュータが三目並べのシミュレーションから戦争の無意味さを学ぶところを観ていると、説得力に欠ける気がしました。

やまもり「絡む、稲妻と怒り」

課題の主旨に対しては、芸術作品がどこまでなのか良く分からないのですが、斧を元に書かれたということになるのでしょうか?
北欧神話の世界を重厚な文章で読みたい! と思わせてくれるものがあります。アピール文で枚数が収まらないと書かれていますが(実際そうなのかもしれませんが)、描くべき場面を切り取って、かつ書かれていない背景も想像できるように語られると切れ味よく、読み応えある作品にしていただければと思います。

猿場 つかさ「君と蹴鞠だけをしていたかった」

古代史をめぐる時間戦争が面白くなりそうなので、選出実作を楽しみにしています。
大化の改新が成功した世界とそうでない世界によって、何が変わりうるのか、蘇我・藤原の権力闘争の勝ち負け以上の意味というのが、日本史選択しなかった民としては梗概で分からなかったので、実作で読ませてもらえると良いなと思いました。
天皇が単性生殖であることが男子男系の虚構を撃つカウンターとして有効なのかは疑問なのですが、実作読ませていただいてから、また。
(直感的な見立てですが、敗戦後から、平成、令和の時代に望まれている天皇像は、政治的なことに口を挟まない「男子男系の女子」ではないかと最近思っています)

髙座創「ギガンテック ブルー ピル」

ちょっとタキオンが無敵すぎて、なんでもありになっている感じがします。スーパーカミオカンデ以上の装置とかないと見つけたり情報を読み取ったり出来ないのでは? 少なくともフィクションのハッタリとしては。
「神が存在する」というテーマは「あなたは神をいかなるものと考えるか」という問いを内包しているので、私も選択しましたが、ぜひ読ませてください。

継名 うつみ「スキット・スキャット・スキャタラー」

裏SF創作講座で投票しました。梗概選出おめでとうございます。
言語=外貨と鮮烈なアイデアに21世紀のタワマンとかめちゃくちゃ面白くなりそうです。
ラストの「祖母の温かい言葉」を、じっさいに、読ませてもらえると。

馬屋 豊「ディープフェイクおばあちゃん」

よくある、は言い過ぎですがよくニュースにもなる現実を、面白く切り取って面白くなりそうです。
(第1回は実作書かれていないので)実作の面白いのを読ませてください。

八代七歩「月うさぎは眠らない」

うさぎ好きのSF初心者に向けて書く、という想定読者の設定が意味不明でいいなと思いました。
うさぎの餅つきがかわいらしいので、狙いは成功している気がします。メルヘンよりで書くかSFよりで書くかのバランスは気になって、月の重力は地球の1/6ですから、地球に持ち帰るとつぶれたりしないか心配です。

邸 和歌「ポピポピポピポピ」

ポピー層の壮大さはとてもいいイメージなのですが、人が認知できない、では済まないはずでなんとかして欲しいという気持ちがあります。

夕方 慄「その舌触りは絹のよう」

ケーキが美味しそうに書かれればすべて解決のような気もしますが、詐欺師を相手にしたドラマとは特に噛み合っていないのではないかと思いました。

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