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日本の歩き方《関西編》        第3回 水都 大阪

大阪はタイ・バンコクに似ていますね。両者とも大河川の下流にあり、商業都市として発展しました。そのため、街の緑が少ないのです。大阪ではようやくうめきた再開発「グラングリーン」で緑を回復させようとしています。

天保山の渡し船

まずは水都大阪の面影がよく残されている大阪港天保山から。最寄りの鉄道駅は地下鉄中央線の大阪港駅です。地下鉄ですが、このあたりは地上を走っています。駅を出て広い道を少し北に行くと、右側にカナダからやってきた9 Borden Coffeeがあり、ここでは焼サンドがお勧めです。

焼サンドがお勧めの9 Borden Coffee

もう少し進むと右手に天保山。ここでは安治川を渡って対岸の桜島3丁目と結ぶ渡し船が運航されています。明治38年に開設されており、渡し船は道路の一部とみなされているので、自転車を乗せてもよく、無料です。これに乗ってUSJに行くこともできます。

渡し船の船乗り場
自転車でも乗れます

大阪港駅を南側に降りて海岸通りに沿って200mくらい進むと赤レンガ倉庫街があります。その中にクラッシックカー博物館や倉庫を改造したAKARENGAステーキハウスやフレンチのLA VIE 1923があります。倉庫のかげで埠頭を渡る風に身をゆだねながら天保山大橋を見上げるのもなかなか気分のいいものです。

赤レンガ倉庫街
こんな案内があります

水上バス

天保山に次いで水都大阪を体感できるのは水上バス(アクアライナー)です。出発地は淀屋橋、八軒家浜、大阪城など数か所あるのですが、時期によって使われない乗り場があったりコースが変わったりで、ネットで確認してから出かけるのがよさそうです。桜の季節は特にお勧めで、土佐堀川、大川、大阪城周辺をめぐってくれます。

北浜を行くアクアライナー
ダックツアーも来ています。どこから来るのか?

この水上バスは大阪城の横に着いてくれるので、大阪城の穴場を紹介したいと思います。ほとんどの人は天守閣を目指すので、西の丸庭園はガラガラに空いています。その庭園内に大阪迎賓館があります。予算に余裕のある方はここで食事もできますが、予約が要るようです。

大阪城内の迎賓館:このとき日本はまだ輝いていた

1995年11月にここでAPEC(アジア太平洋経済協力)閣僚会議が開催されました。第1回(1989年)はオーストラリアのキャンベラです。APECは日本とオーストラリアが中心となって宇宙船地球号問題(現在の気候変動問題)と南北問題(先進国と発展途上国の経済格差問題)の解決に向けて取り組んでゆく決意を世界に向けて示したものでした。また同時に、アメリカ従属の対外関係からの脱皮を意図したものでもあり、1989年という年は戦後日本の集大成であると思います。

変貌する大阪駅周辺

関東から来る人にとって、JRは大阪駅、阪神・阪急と地下鉄は梅田のように呼称が違うのには戸惑うと思いますが、実はつながっています。また、エスカレーターの場合、関東は左、関西は右と違う側に並びますが、いずれにしても早く両側に並んで輸送力を上げるようにして欲しいですね。

まず、2011年にJR大阪駅の南北をつなぐステーションシティ「時空の広場」ができ、駅を挟んで南北の移動が楽になりました。2023年3月から西改札口が営業をはじめ、顔認証改札機も導入されています。西改札口を出て左(南)に出ると、そこにはJPタワー大阪(KITTE大阪)があり、その中に多くの飲食店や各地域の物産を扱う店舗が入っています(2024年3月)。反対に北側に出ると、緑と融合した生命力あふれる都市空間としてグラングリーンが半分ほど完成しました(2024年9月)。

JR大阪駅ステーションシティの「時空(とき)の広場」
JR大阪駅西口の顔認証改札機
KITTE大阪の入口
グラングリーン。正面に見えるのはスカイビル。

都市の緑地空間の維持という視点で、高層ビル屋上の緑地としての活用が考えられて機ました。大阪駅北側のルクア10階には「和らぎの庭」があり、さらに4階上った14階には「天空の農園」があって多くの作物が栽培されています。「天空の農園」と「和らぎの庭」の中間には「風の広場」があり、ここからスカイビルを眺めることができます。スカイビルには空中庭園展望台があり、水都大阪360度の眺望を満喫できます。

和らぎの庭
天空の農園
風の広場
スカイビル空中庭園からの展望

このように緑を取り戻しつつある大阪ですが、再開発によってできたものは飲食店、ショッピング街とオフィス空間が大部分です。これらは他の主導産業  —現在の日本の場合は自動車、工作機械やゲーム・アニメのようなクールジャパン関連—  のおこぼれにあずかる業種ばかりです。GDPや人口が一定の下でこのような再開発を行っても、別のところが空きオフィスやシャッター街になってしまうのです。このシリーズ「日本の歩き方」の東京編「東京駅~青山界隈」でも神宮外苑再開発に反対しましたように、一定のGDPを空間的に再配分するのではなく、未来に向けての投資にしてもらいたいものです

大阪で少しばかりそのような投資かなと思えるのがグランフロント北館のナレッジキャピタルかもしれません。ここにはルクアやグラングリーンを通って行くことができます。そのThe Lab.はテクノロジーに関心のある人びとが集まるサロンとして使われており、2024年9月16日にはセミナー「関西発の小型衛星 徹底解説」が開催されました。また、その下のフロアにあるCafe Lab.は静かな活気があり、世界面白賞の受賞内容が展示されていることもあります。

The Lab.の内部
セミナー「関西発の小型衛星 徹底解説」で展示された人工衛星
Cafe Lab.
Cafe Lab.ではWorld Omoshiroi Award 受賞者が紹介されることもあります。
台湾のオードリ・タン氏もその1人でした。

大阪を輝かせた人びと

大阪と言えば、まずこの方から。薩摩藩出身の五代友厚(才助)大阪商工会議所設立などを通じて、東の渋沢栄一と並んで、近代日本の経済発展に尽くされました。京阪電車北浜駅の地上にある大阪証券取引所前に銅像があります。日本テレビ『奇兵隊』で勝野洋さんが演じた五代友厚が懐かしい。

大阪証券取引所前の五代友厚

次は湯川秀樹氏。1947年、理論物理学・素粒子物理学の分野で日本人としては初のノーベル賞を受賞され、まだ焼け野が原が広がっている時期に日本人を勇気づけました。これと関連して、大阪大学総合学術博物館をとりあげたいと思います。この建物はそれ専用に建てられたものではありませんが、最近の現代アートが建物の建築学的価値で勝負する傾向があるのに対し、この阪大の博物館は展示内容での勝負です

2024年4月24日~6月22日には「3人の藤野先生」特別展がありました。とくに、藤野厳九郎先生と周樹人(魯迅)との関係がすばらしい。このような関係が他のアジア留学生との間でもできていれば、その後の日本の針路は変わったことでしょう。特別展だけでなく、常設展量子物理学コンピュータ発達史の展示も見ごたえがあります。最寄り駅は阪急電車阪大前ですが、駅から阪大方向に出る出口がないので、西口を出て商店街を大回りして阪大に行くことになります。

次に、国民文学としての歴史小説のジャンルを確立された司馬遼太郎氏。司馬遼太郎記念館は近鉄奈良線八戸ノ里駅を下車。ライフと布施高校の間の道を近大方向(南)に約300mほど進むと八戸ノ里病院の角に右折の道案内があります。この建物は安藤忠雄氏の設計によるもので、ドリンク類のカフェがありオリジナルグッズも販売されています。司馬さんの『花神』と合わせて『奇兵隊』を見ると日本の夜明けを感じることができると思います。『奇兵隊』の主要部分はYou Tube上にあって、著者は中村雅俊演じる桂小五郎のファンです。

司馬遼太郎記念館
記念館横にある司馬さんの居室

最後に、現役としてご活躍中の安藤忠雄氏。安藤氏の建築研究所は阪急梅田駅から茶屋町を通り、梅田芸術劇場を経てさらに10分程度東北方向に歩いたところにあります。

安藤忠雄 建築研究所

同氏の『仕事をつくる』(日本経済新聞社)には、「必要なのは甘えた”ゆとり”などというものではない。不安と隣り合わせの、本当の意味での自由な時間と場所を与えることだ」と書かれています。しかし、実際にこれをやると、多くの大学で低い授業評価を受け、学生の満足度を重視する大学の経営方針にそぐわないことになるでしょう。そこには『奇兵隊』や『花神』から感じられる「日本の夜明け」とは対照的な景色が広がっています。どうすればいいんでしょうね。


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