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オーストラリア体験記        <第5回> アウトバックへの旅

オーストラリアと言えばアウトバック。内陸に広大な人口希薄地帯が広がっています。今回の旅では、できるだけ飛行機とレンタカーを使わないでアウトバックに踏み込むプランとしました。

アウトバックエクスプローラーに乗る

2月3日午前11時ごろ、予定通りアウトバックエクスプローラーがオレンジ駅に到着。今回はオレンジ駅に着いた段階で乗車券を購入していたので、予定の車両に乗り込みます。乗っている時間が8時間と長丁場になるので、食堂車の様子を見に行くと、先日Dubbo行きの列車XPTで見たのと同じ食欲の湧かないものでしたので、日本で言うジャーマンドッグ(日本だともっと上手く焼ける)を買って、後はKitKatでしのぐことにしました。

外の景色を見ていると、ところどころに牛や羊の群れが見えます。時間がたつにつれて、乾燥度が増すのか、木の高さが低くなり、赤茶けた地面の露出が多くなってきます。ブロークンヒルまでの線路は道路とは違ってほとんど人のいない地域を通っているようで、1時間に1回くらい停車しても、まともな駅はありません。

羊・羊・羊・・・
パークスの近辺
Euabalonc Westの駅
Euabalonc Westの駅に迎えに来た人々
徐々に低木となり植生の密度も下がります。

ブロークンヒルに着くまでの8時間を、ずっと外の景色に注意を払って写真に残していくのは非常に困難な作業なのですが、6大陸制覇をめざす札幌市在住のブロガーさんによって詳しい旅行記が残されていますので、それを参考にしてください。(↓ コレです)

直線区間にもかかわらず列車のスピードが速くなったり遅くなったりするのですが、予定通り19時ごろブロークンヒル到着。サマータイムなのでまだ外は明るい。40度を超える高温の中、駅前のComfort Innのチェックイン。受付の感じのいいおばさんが、先週の列車は3時間も遅れたよと言っていました。

ブロークンヒルにて

ブロークンヒルの人口は約1万7千人。かつて、銀、鉛、亜鉛などの鉱業で街は発展しました。BHP社創業の地ともなっています。現在は南オーストラリア州との経済的つながりが強く、シドニーと同じNSW州でありながら、シドニーと30分の時差があります。

列車の中で空腹状態であったので、直ちに食事にしないといけないのですが、町の中は静まり返っていて、人の気配がありません。町の中には例の2つのスーパーがあるのですが、西にはずれているので、メインのオキサイド通りを北側のKFCへ。ここに来るまでに、ホンダ、イスズ、スズキを発見、帰りにスーパーのFood Landも見つかりました。

翌朝は、まず腹ごしらえから。前日夜の雰囲気から、まともな店があるのか心配だったのですが、1件だけすばらしいCaféが営業していました。店に入ってパンを見たところクロワッサンがないので、あるのかどうか尋ねたところ、店員のおばさんの方からハム・チーズ・クロワッサンはどうだ、あっためるのもできると親切なsuggestionがあったので、おいしいコーヒーと一緒に注文。この店は人気があるようで、近所のおじさんや、工事関係者が次々とやってきます。宿のComfort Innも工事関係者の拠点のようになっています。

ブロークンヒルの街並み
朝から営業して人気のあるCafe Espresso BAR

今日の日課は街の探索と、駅の裏手にある鉱山跡への踏破。散策して古い町並みがよく保存されているなと感心しながら、ホテルに戻ってくると、駅にインディアン・パシフィック号が来ています。パースからの列車が今日の夕方到着するはずなのですが、運航スケジュールが大幅に変わってしまったのでしょうか?

インディアンパシフィック号の雄姿

あまりにもの高温で、ひとまず外出はこれで終了。夕方になって気温が下がれば鉱山跡に再挑戦と思っていましたが、いつまでたっても気温が下がらず、1日が終了。

町中からも掘削場の跡を少し見られます

アデレードに向けて発つ

今日は南オーストラリア州の州都アデレードに向けて出発です。アデレードまで週4便くらいバスが出ていますが、そこから先が長距離バスやレンタカーの運転になるので、ここは毎日2便飛んでいるREX(Reginal Express)で時間を稼ぐことにします。飛行時間は1時間20分。

ブロークンヒルの空港はフライイングドクターの拠点になっています。
この飛行機でアデレードに
アデレードの海岸線が見えてきた

アデレードの空港からノーステラスのRivieraホテルまでタクシーで40$。ノーステラスの道に沿って大学や博物館が集積しています。Rivieraホテルの周辺には南オーストラリア大学のミュージアムMOD(Modification)があり、科学と芸術の融合を目指しています。また、SAGC(ゲノム学センター)も芸術的な建築です。

A Museum of Discovery: MODは発見とインスピレーションのためのミュージアムです。
SAGC(ゲノム学センター)

アデレードには1泊なので、ミュージアムを探索する余裕はなく、まずバスセンターに急いで、翌日のポートオーガスタ行きのチケットを確保します。その後、12年前に来た時にヨーロッパを感じたノースアデレードに向かいます。しかし、ちょっと雰囲気が変わってしまったか?

ノースアデレードのメルボルン通り(2012年撮影)

菊間潤吾氏による下記の書物にノースアデレードは「旅行者が住宅街を歩く機会は少ない。だが、地元の人々の暮らし振りに触れてみるのも、従来の旅の形とは一味違った体験になるだろう。」と紹介されています。

このあたりで夕方になり、食事のことを考えなければならない。アデレードではビクトリアスクエアの西側のフランクリン通りとグロート通りの間にバスターミナルがあり、その南にセントラルマーケット中華街が広がっています。中華街の中には日本食やタイ料理を含めて多様なアジアン系のレストランが軒を連ねています。ただ、注意しないといけないのは、必ずしもその国の人によって料理されているわけではなく、当たり外れが大きいことです。食事のボリューム、味、料金で安心できるのはベトナム料理のように思います。

中華街の入口
グロート通りの中華街。筆者はPho Nguvenでベトナム料理Pho(フォー)を食べました。

ウーメラ砂漠へ出撃

2月6日(木曜)、朝マックを食べて、8時25分にアデレードバスセンターを出発。約1時間半でPort Wakefieldに到着。ここで朝食用の休憩時間が40分ほどありましたが、食欲の湧くものがありません。その後のバス停には各5分程度停車し、東ポートオーガスタで再び昼食用の長い休憩タイム。ダウンタウンに近い方の西ポートオーガスタのバス停に着いたのは1時40分くらいです。ここから入江に架かるJoy Baluch AM Bridgeを渡って約1㎞を歩き、レンタカーAVISとBudget合同のオフィスに行きます。予約していたホテルがハズレだったので、そのBudjetの方にOASISモーテルを紹介してもらって今日の日課は終了。このモーテルはすばらしい。近くにいつものWoolworthがあります。

西ポートオーガスタのバス停前を走る3両連結の“バトルトラック”「ハラリ」
Joy Baluch AM Bridgeから見る貨物列車。入江の向こうに見える黄色いポツポツ1つ1つが貨車。

翌朝、8時過ぎにレンタカーを受け取り、いざウーメラ砂漠をめざして出発。西ポートオーガスタに入ると直ぐにパースに向かう国道A1とダーウィンに向かうA87に分岐します。A87をしばらく進むと、ここからアウトバックとの表示が。スチュワートハイウェイの始点です。足っている車はほとんどが“バトルトラック”です。最高速度110㎞で、90~100㎞/hで走ってもほとんど追い抜かれることはありません。

Outbackの表示が現れ、スチュワートハイウェイを驀進。
愛車はカムリ
最初は緑の植生が少し残っています。
時々、トラックに抜き去られます。
次第に赤茶けた大地に。
ピンバの手前で大塩湖(?)Island Lagoonが現れる。
湖の中の小高い山はFish Mountainと呼ばれるようです。

ところどころで停車して写真をとったり休憩したりして、約3時間運転するとピンバの町に着きます。町といっても、ガソリンスタンドの周辺に数軒の家があるという感じです。ここでB97号線に右折、少し行くとパースやダーウィンまで通じる鉄道線路を横断します。残念ながら列車ザ・ガンや長~い貨物列車に遭遇しません。さらに5㎞くらい進むとウーメラ基地への入口です。

ピンバの町からB97号線に入り、線路を渡ったところ。
踏切の向こうにピンバの町が見えています。

ウーメラの町中には、あまりにも暑いためか、人影はありません。そこで、基地となっているビジターセンターに行って昼食をとります。中に入るとレストランがあって、工事関係者がチキンの洋定食のようなものを食べています。オーストラリアに来て、初めてこういうものを見かけました。著者はハンバーガーを注文し、案の定、巨大バーガーが出てきて処理に困りました。ハンバーガーのサイズを半分にしてフライドチキンを1個つけてくれる方がずっと有り難いのですが・・・。

ウーメラ基地内の拠点 Heritage Center
Heritage Center内のレストラン

このレストランの中にはパネル展示があって、その中に日本の航空宇宙技術研究所の無動力飛行に関する実験が目を引きました。このウーメラ基地でのプロジェクトはJAXA以前から進められており、はやぶさ1・2号機の大成功も長い日豪間の研究協力の上に成し遂げられたようです。「はやぶさ1」のプロジェクトは宇宙科学研究所において1995年に正式にスタートし、JAXAに引き継がれます。今もそうですが、この頃の日本の宇宙関連予算はアメリカNASAの1/10にも満たないものでした。ターゲットとする小惑星は地球から3億㎞離れた「イトカワ」。これを実現するため、イオンエンジンを開発し、地球の重力を利用するスウィングバイという加速航法を編み出しました。

レストラン内の展示。日本の航空宇宙技術研究所の名前が!!

これらの準備の下、「はやぶさ1」は2003年5月9日に鹿児島県大隅半島の内之浦から打ち上げらます。プロジェクトリーダーの川口淳一郎氏が「そうまでして君は」と表現するように、「はやぶさ1」は満身創痍の状態となりながらも地球に接近、2010年6月13日午後10時51分、7年間60億㎞に及ぶ旅を終えて大気圏に突入、その本体はオーストラリアの夜空に輝く流れ星となって消え、本体から切り離された採集カプセルはウーメラ砂漠に帰還しました。その後、「はやぶさ1」がサンプルリターンで小惑星「イトカワ」から持ち帰ってきた1500個の微粒子から水の成分が検出されています。

その成功に続く「はやぶさ2」の任務はサンプルリターンによって採取した岩石から水や有機物の痕跡を調べる理学的内容に重点が置かれます。そのため、向かうべき小惑星として、小惑星帯の中でも太陽からより遠くにあって有機物の成分を含んでいる可能性の高い「リュウグウ」が選ばれます。また、そのプロジェクトリーダーとして、行方不明になった初号機の捜索に限りない「粘り」を発揮した津田雄一氏が任命されます。

2019年4月から7月にかけて実施された人工的なクレーター内部からのサンプルリターンへの成功は世界史的な大成果でした。2020年12月5日、「はやぶさ2」はサンプルの入ったカプセルを分離、翌日ウーメラ砂漠に帰還しました。今回の「はやぶさ2」はカプセル分離した後、地球をスウィングバイ、小型の小惑星「1998KY26」へ向かう拡張ミッションを実施しているところです。

「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルは現在、分析が進められています。その結果、水、アミノ酸、RNAの塩基が見つかっており、さらに水からは有機物と固体を作る性質を持つナトリウムやマグネシウムも見つかっています(日本経済新聞、2024年6月5日および9月5日)。もし、地球上の生命の材料が小惑星から持ち込まれたものであるとする仮説が実証されたとすると、9億年前に起きた小惑星の地球への大量衝突がカンブリア爆発の引き金になったということになります。日本経済がとどまることを知らず没落していく中で、人類史上の快挙を成し遂げられた川口淳一郎氏と津田雄一氏およびJAXAの皆様に感謝いたします。

モーテルOASISから見る夕焼け

今回のアウトバックへの出撃は、スチュワートハイウェイの激走と、ウーメラ基地での新発見という感動に満ちたものとなりました。この日の最後に、モーテルOASISからの夕焼けを見て余韻に浸ります。

長距離バス事情

バスの行き先に注意
時刻表ではポートオーガスタ行きのバスの最終目的地はWhyallaなのですが、この時刻にアデレードのバスセンターで待機しているバスはポートリンカーン行き。乗り込まずにバスの前でずっと待機していると、運転手がこれに乗るんだと説明してくれました。オーストラリアに限らず、欧米でも、同じ方向に行く乗客が1つのバスに載せられ、途中から小さいバスに乗り換えさせられて分岐していくことがあります。

降車のバス停に注意
ポートオーガスタは入江をはさんで西東のポートオーガスタに分かれており、ダウンタウンは東の方になっています。そこで、アデレードのバスセンターでStateliner社のチケットを買うときに東ポートオーガスタまでのチケットを買いました。しかし、チケットのバス停をよく見るとCaltex Truckstopと小さく追記されているではないか。その夜、google mapでチェックすると、その場所はダウンタウンから5㎞も東に離れたところでした。翌朝、早めにバスセンターに行ってチケットの行き先を変更してもらい難無きを得ました。

ポートオーガスタ東のバス停は事実上Caltexのガソリンスタンド
ポートオーガスタ東のバス停で休憩・食事タイム中にどこからか新しいバスが現れる。
一部の乗客がそれに乗り換えて、違う方向に分岐していくようです。

バスセンターにバス会社の人がいない
アデレードのバスセンターではStateliner社の他にグレイハウンド、V/Line、FIREFLYなどが営業しています。そのうち、Statelinerは朝から夕方まで複数の担当者がいるのですが、他社は誰もいません。これではセンターの意味がない。著者はStateliner利用だったので、バス停の変更が可能でした。

バス会社の発券カウンター(午後4時ごろ)

主要なバス停でもガソリンスタンド
小さい町では、バス停かどうかわからないような所にバスが停まります。Port Pirieのような地図に名前が載っている町では、ガソリンスタンドにイートイン付きのコンビニがある所に停まります。それがダウンタウンかどうかも怪しいです。ポートオーガスタではグレイハウンドとStatelinerのバス停が違う所になっていました。送迎のいない旅行者にとっては忌々しい問題です。

アウトバックの旅も終わり、来た道をアデレードに向けて引き返します。往路のポートリンカーン行きのバスが遠足のような雰囲気の乗客だったのに対し、復路は生活臭が滲み出たような客層です。アデレードに午後3時ごろ到着。夕食を食べて、再びメルボルン行きの夜行バスに乗り込みます。


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