桜の木の約束 〜50年後の夜〜
第一章:白い着物
「おばあちゃん、その白い着物、すっごくきれい!」孫の美咲に言われて、私は鏡の前でくすりと笑った。かつて、同じような白い着物を着たおばあさんに出会った夜のことを思い出しながら。
今夜は、あの約束の夜。
50年の時を経て、今度は私が誰かの案内人になる番なのだ。
第二章:新しい出会い
春の宵、私は静かに歩を進めた。
月明かりに照らされた道を、50年前と同じように。あの小学校は、建物こそ新しくなっていたが、場所は変わらない。
そして、あの桜の木―私だけが知る魔法の木は、すっかり大きくなって、今では校舎の3階まで届くほどだ。
夜の闇の中、一つの窓に明かりが漏れていた。
宿題でもしているのだろうか。
私はそっと、窓をノックした。
中からびっくりしたように顔を上げた少女。
丸い眼鏡の奥の瞳が、50年前の私にそっくりだった。
第三章:つながる時
「あの桜の木のことが知りたいのかい?」
50年前に聞いた言葉を、今度は私が口にする番だった。
「えっ...どうして...」
少女は驚いた様子で立ち上がった。
彼女の机の上には、一枚の新聞記事が広げられていた。
『謎の桜、虹色に輝く―専門家も解明できず』
「明日の夜、学校に来なさい」
私は50年前と同じ言葉を告げた。
「でも、誰にも言っちゃいけないよ」
第四章:魔法の継承
次の夜、少女は本当にやって来た。
私は彼女を、桜の木の下に導いた。
月明かりに照らされた木の周りには、あの時と同じように、どこからともなく現れた不思議な動物たちが集まっていた。
透き通るような姿のリスやウサギ、キツネたち。
「この木には、魔法がかかっているの」
私は語り始めた。
「そして、その魔法を見守る人が必要なの」
木の根元から、七色に輝く小さな芽が顔を出した。
「これは、次の50年のために」
終章:新たな約束
少女の目が輝いた。
「私も50年後、誰かに会いに行くんですか?」
「ええ」私は微笑んだ。
「そして、その時にはあなたも白い着物を着るの」
帰り道、少女は何度も振り返って桜の木を見ていた。
私も50年前、同じように振り返ったっけ。
その夜以来、新聞で報じられた虹色の桜の謎は、誰も解き明かせないままだ。でも、それでいい。
なぜなら、この不思議は、50年ごとに選ばれた人だけが知る、特別な秘密なのだから。
空には満月が輝き、桜の木はいつもより少し明るく光っているように見えた。
まるで、新しい約束を祝福しているかのように。
*おわり*