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ロッシーニとワーグナー

1792年生まれのロッシーニは、オペラの世界で大成功を治め、ロッシーニのオペラに熱狂した人々は、新しいオペラの作曲を期待していたが、1836年、44歳を迎えたロッシーニは人々の期待を裏切って、オペラの世界からの引退を表明した。その理由は明らかではないが、華やかな世界にひそむ空虚さを感じたからではないかと言われている。
ところで、ロッシーニは、ワーグナーとの対談を行なっている。
時期は、オペラの世界からの引退後、20年以上を経た1960年頃に行われたようである。
私の持っている、イタリア語版の全曲盤のCDの解説によれば、この対話の中で、ロッシーニは「もう私の音楽を表現してくれる歌手がいなくなった」と嘆き、「カストラート(男性ソプラノ)がいなくなったし、現在の歌唱法はわれわれの時代から見れば、すっかり変化してきてしまった」と述べている。
ワーグナーは、この対談の中で、《ウィリアム・テル》の中の詠唱〈静かにひざまずいて〉を極めて賞賛するとともに、言葉の抑揚とチェロの伴奏が、音楽の理想的な一体化を示したものであると述べている。
さて、このワーグナーが絶賛した部分はどこなのだろうかとCDのブックレットを見るのだが、そのインデックスには、〈静かにひざまずいて〉の表記はない。
各幕を聴き進んでいくと、第三幕の後半、テルがまさに息子の頭に載せた林檎を射抜かんとするシーンの直前にある、テルが息子に語りかける「じっと動かないで、片膝を大地につけて」という場面がそれであろう。
チェロの独奏に促されてのテルの歌唱のこの場面は、まさにこの「ウィリアム・テル」というオペラのクライマックスのひとつを形作っている。
昨日、11月20日より、この「ウィリアム・テル」の原語版日本初上演が、新国立劇場にて開幕している。

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