蝉はまだ土の中、僕はまだ海の中

どうやら、夏が終わる。残念だけど。
今年もまた日の目を見ることもなく去っていく季節に未練を残したまま残暑へとダイブ。
今になって蝉がうるさくて嫌になる。
暑すぎるのは彼らにとっても悪いことなのか。

まあ、7年も土の中にいたんだから少しは大目に見てやってもいいかなんて思ったりもする。けど7年経てば地上に出れるなんて、ある意味羨ましいな。
しばらく地中で過ごして、夏の日に太陽の下に出てきては一瞬の輝きを放つ。
なんだか図々しく感じてくる。

僕はいつまでこんな暗い地面の下にいるんだろう。地表だと思ってるものを叩いて壊しても、それはまだまだ深い土の中で、陽光はいつまで経ってもおがめない。どっちが上か、どっちが下かも分からないままあちこちを叩いては勝手に消耗する。

蝉はいずれ外に出る。日の目を浴びる。花火のようにパッと咲いては散る生涯は、人間だったら美しいのか。
僕はそうなりたい?そうなりたいのか?自問自答を繰り返しても見えてくるものはなくて、分からないまま日々を重ねる。

僕はきっと蝉にはなれない。長い間地中にいると思っていたが、きっとそうじゃないんだ。
僕はずっと海の底にいる。仕方なく地面の中にいるんじゃなくて、勝手に潜っては水面に出れないともがいているだけなんだ。

いつからだ。はっきりしない。多分二十歳かそこらのころだ。暗い階段を降りて広がる海に溺れていた。「海」が屋号に入るあの店の暖簾をくぐることを仲間内では「潜る」と言っていた。
僕はあの頃からきっと変わっていない。むしろさらに深く、深く、深く。どんどん深みにハマっている。

あれからしばらく。店は潰れた。
でも僕はまだ海底から動けないでいる。
いつか水面に出たい。そのためにもがく。

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