実は春の方が好きかもしれない

夏が好き。夏で、夏の1日が好きで、暑い暑いと文句を言うことすらも愛おしく感じる。
そう思っていた。

いよいよをもって僕もそれなりに歳をとってしまって、人生ゲームをやるのが怖くなってきている。ルーレットをいくら回しても「ストップ」のマスはまだまだ遠くて、空席だらけのコマを走らせている。
僕が歳をとるのと同じ速さで地球も歳を重ねていて、東京という土地はもはや灼熱の地獄と化している。

確かにそうだ。君が言うように情報を取捨選択することは大事だ。だから地球温暖化が本当なのか、それとも地球は暑い時期と氷河期を繰り返しているという説も、どちらが真に正しいのかは分からない。
でも、ただ一つ分かっていることは今死ぬほど暑いということで、去年の夏に流行病を捕まえて病院に行くまでの道で感じた地獄のような暑さは間違いではない。

とにかく、これは僕が望んでいる夏ではない。夏ってのはもっと、ほら、なんていうか。朝はまだちょっと涼しくて、昼は暑いけど外で遊べる程度で抑えられていて。
「夜になっても半袖でいけるな」みたいな気持ちでコンビニに歩くのが理想。理想のはずだ。

しかし今この瞬間、23時になっても街はまだ熱気を掴んで離さないままで、半袖どころか世間が許すのであれば全て脱ぎ散らかしたい衝動にすら駆られている。
おまけに日差しがない分余計に湿度を感じてしまって、ベトつく肌と息の詰まるような蒸し暑さが文字通り僕を蒸しているようだ。

かと言って冬がびっくりするほど暖かくなるでもなく、むしろ秋を飲み込んだ残暑から一気に突き落とされる一年はどう考えても体に悪い。サウナが好きとは言ったが、こういうことではない。

しかし悲しいかな、こんなに夏に対して恨みつらみがあるくせにどうにも嫌いになれない。
ここ数年毎年毎年暑さに参っているくせに、真冬になったらそんなことはすっかり忘れて「早く夏になれ」と唱えている。
そして春が来て、2月くらいの少し日差しが心地よい日に「まるで夏みたいだ!」なんて嘯いて、翌日は布団にくるまっている。
4月、5月の暑い日に「毎日こんなんだったらいいのに!」とか言って。
本当の夏はこんなもんじゃないと、何回も経験してきたはずなのに。

もしかしたら。万が一。可能性の話だけど。本当は春に訪れる「理想の夏」が好きなのかもしれない。我々が失った概念の夏を具現化した春の1日に、理想の夏を思い浮かべるあの瞬間が好きなのかもしれない。
夏は好き。これは本当。だからいつも夏を待ってる。大好きな理想の夏がまたいつか訪れることを願って。

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