45
2022年12月14日。この日はきっと思い出に残るだろうと、夜道を歩きながら考えた。
ELLEGARDENというバンドに出会ったのがいつだったかは定かではない。中学生の頃には知っていた気もするし、高校生になってようやくその魅力に気づいた気もする。
とにかく、10代の後半に差し掛かった僕の鼓膜にはその強烈な音が鳴り響いていた。
当時は丁度「邦ロック」というジャンルが若者のスピーカーを鳴らしはじめる時期だった。iPodが全盛期で、買った/借りたCDを取り込んで持ち運んでいた。
僕も多分に漏れず安物のイヤホンを耳に突っ込んではフードを目深に被って歩いていた。それが「クール」だと思っていたのだ。
しかし中学生の頃に出会ったブルーハーツはとうの昔に解散していて、ライブを観に行く事は叶わない。後に続くハイロウズすら、既に活動を終了していた。
ELLEGARDENというバンドも出会った時には活動を休止していて、(たとえ休止前最後のライブで「これが最後ではない」というMCがあったとしても)「ああ、また同じような感じか」と僕は仕方なく既存の曲やインターネットに転がるライブ映像を観ていた。
そんなバンドから衝撃のニュースがあったのが2018年だった。確か東北へ行く夜行バスに乗る予定の日で、ひどく驚いたのを覚えている。
狭い車内。通路側の席に座り、消灯と同時にイヤホンでELLEGARDENのボーカルがやっているラジオを聞いて、暗い車内の中でひっそりと涙を流したことは頭に残っている。
あれから随分と月日が経って、彼らの活動は再開したとはいえ最初のツアー以降はフェスに出たりといった事が多く、結局僕は未だに「あのバンド」を観ることができないでいた。
それが今年になって、またとんでもないニュースが飛び込んできた。新曲が出るというのだ。それも、フルアルバムの発売を控えているという。
そして、そのアルバムに先立って今までの曲を演奏するツアーが組まれた。Lost Songs Tourと名付けられたツアーのチケットは、奇跡的に当選した。
当日はひどく寒かった。今季1番と言われる寒波がやってきていて、忠臣蔵はこんな寒さの中だったのかと思った。
初めて行く会場までモノレールに乗って、すでに暗くなった外に出た。巨大な商業施設の一角にある会場の周りには人だかりができていて、一目で場所がわかった。
まだ全ての店がオープンしているわけではない、むしろほぼまだ開発途中のような商業施設の中はおそらくこれから始まるライブに行く客しかおらず、不思議な一体感が周りを包んでいた。
中に入ると、流行り病以降では見ることができなかった大勢の人が立っていてそれだけで興奮した。スタートは10分押し。
照明がスッと落ちて、ステージの色が変わる。
始まる。ついに。高校生の自分に言い聞かせるように思った。ステージの強さに負けないようにグッと手に力を入れる。ついさっき買ったグッズのパーカーの生地を強く掴んだ。
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外に出ると先ほどまでの熱気はどこへ行ってしまったのかと不安になる程冷たい風が顔に打ち付けた。
火照った全身に「落ち着け」と言っているような冷気が体を包む。
一瞬だった。全ての曲が始まる度に鳥肌が立つのを感じた。歌い踊り狂いたくなる衝動を必死に抑えるのがあまりにも大変だった。
今回のツアーでは、日ごとに「その日しかやらない曲」を演奏しているという。今日は、ファーストアルバムから「45」という曲だった。
友達のライブまであと45分しかないのに、まだ100マイルも先にいる。打ち上げにはギリギリ間に合うんじゃないか?と思いながらアクセルを踏み込む曲だ。
本当のことを言えば全曲聴きたいくらいだったが、僕はこの「45」がかなり好きだった。そんな曲がまさか今日演奏されるとは思わなかった。
45。
ニューアルバムが出て、ツアーがあって、でもきっともうしばらくは聞くことができない。そんな曲を目の前で聞けたことに感謝している。