灰色の嘘
嘘つきは泥棒のはじまり。嘘なんてつかない方がいい。それはきっとそうだ。
咄嗟に、嘘をついてしまう事がある。それ以上の言及を避けたくて、あえて伏せておいたり、言わないのもある意味では嘘になるかもしれない。
「謙遜」も、捉え方によっては嘘だ。「そんな事ないですよ〜」と言いながら自分では「でしょ?」と思っている。
でも、それはその場を凌ぐために、仕方なくつく嘘だ。「ホワイト・ライ」、「白い嘘」。それらはきっといい嘘だと思っている。
反対に黒い嘘は、きっとミスを隠そうとしてつく嘘だったり、誰かを傷つけるような、そんな嘘だ。
場面によって、求められる答えは違う。目下最近の悩みは「若い人はこんなの知らないか〜」である。
普段の会話であれば問題はないのだが、ライブの客いじりとかでそれをされるとどうしようもない。
例えば、「昔はMDってのがあってね、あ、知らないでしょ?」と言われてしまうと、嘘をつかざるを得なくなる。
本当はMDは知ってるし、なんならがっつり使っていて、小学生の頃はそれでミックステープ(テープではないけど)を作っては聞いていた。
しかし、ここで求められているのは「知らない」事だったりする。
普通に喋っているのならば「いやー、それが僕も使ってまして」となるが、客と演者の関係ではそういうわけにもいかない。そんな長々と説明する時間はなく、テンポ的にも首を横に振るくらいがギリギリだ。
しかし、ここで別の問題も出てくる。声の出せない状況において、否定疑問文に答える事は難しい。
「知らないでしょ?」に対して首を縦に振ればいいのか、横に振ればいいのか、分からなくなる。
これは、僕が普段そういった質問に対して答える時に、一時期勉強していた英語が介在してしまうからだ。
「知らないでしょ?」に対して「うん、知らない」「ううん、知ってる」ではなく、「うん、知ってる」「ううん、知らない」という答え方をしなくてはいけない、と思っているうちにどっちがどっちだか分からなくなってしまったのだ。
これでは、嘘も本当も上手く表せない。
僕は仕方なく「ルービックキューブって知ってる?知らないでしょ?」に対して首を傾げた。
「そっかー、知らないよね」
なるほど、これでいいのか。
これからは白くも黒くもない、灰色の嘘をついてその場をやりすごそう。