高圧電線の鉄塔を照らす月光

大学時代を過ごした街で、大学時代の仲間と、大学時代に行った店で飲んだ。
仲間は最近二月に一度くらいは会っているのでそんなに懐かしくはない。むしろ懐かしく思えるのは街並みだった。

と言っても、街自体も別の用事でそれなりの頻度で訪れているので、景色には別段目新しさは感じない。たしかに、無くなった建物、綺麗になった駅、新しくできた店などは目に入るが特に驚いたりはしない。

しかし店に入ると一気にあの頃の記憶が脳に飛び込んできた。自然と話す内容も昔のことになる。
今まで彼らと飲んでいたのが新宿だったせいもあって、この街の平日はこんなに閑古鳥なのかと思ったりもした。
程よく酔い、あの頃よく食べた「涙巻き」(ワサビの巻き物)を注文して文字通り涙目になった。

何軒かハシゴして最後はスナックにたどり着く。流行り病からこの方こんな遅い時間にこの街にいる事がなくて、本当に久しぶりに扉を開けた。
ママはなんとなく覚えていてくれて、「ギターも新しいのがあるよ」と声をかけてくれた。友達のボトルを出してもらって、少しだけ飲む。
薄暗い和式の便器が懐かしい。

店を出て、始発までまだ時間があったので隣の駅まで歩く。大学は二つの駅の丁度中間くらいにあって、どちらの駅にも思い出があった。
完全なド平日ということもあって、人影は殆ど見当たらない。
先ほどまで食われていた月は、まるでそんなことはなかったかのように煌々と光っている。眩しいくらいの陽光が高圧電線の鉄塔の向こうから僕らを照らしていた。
あの頃歩いた道を、あの頃の仲間と歩く。

ふと、まだ世に出していない曲の歌詞を思い出す。丁度この街の、この道のことを詞にしたんだった。

The last day in the town
Every corner has the memories of us

「この街で過ごす最後の日 全ての角に思い出があるんだ」と歌った歌は、未だにデモ音源の域を出ない。
いつか、この街のことを歌った歌を世に出したいなと思う夜であった。

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