最前線で働くのも、子どもを持つのも諦めたくない。会社経営者兼1児の母が、自分らしく生きるために意識してきたこと
今回お話を伺ったのは、30代前半の会社経営者・絵里さん(仮名)。コンサルティングファームや事業の現場での経営支援の仕事を経て、独立。約1年後に妊娠し、現在は会社を経営しながらお子さんを育てています。
会社経営と子育ては、どちらも自分が欠けたら成立しない責任の重い仕事。双方に向き合い、両立させている絵里さんは、どんなことを考え、意識してきたのでしょうか?これまでの歩みを振り返りながら語っていただきました。
会社経営と子育ての両立を見据え、全役職を網羅できるキャリアを選択
―――絵里さんは、経営者として日々忙しく働きながら子育てをしていますよね。現在のような生活を送ることは、いつ頃からイメージしていたのでしょうか?
私はもともと、自分の人生は自分で決めたいタイプです。大学時代から「いつかは独立して、バリバリ仕事しながら子育てもしたい」と思っていました。
子育てをしながら役員をやっている女性って未だに少ないので、ロールモデルが周囲にいなくて。そんな中でも、自分がどういう人間になれば仕事と子育てを両立できるか、よく考えてキャリア選択をしようと意識していたんです。
なので、「自分で事業を行うための一通りのことを20代のうちに学び、経験する」を最優先に職を選びました。
20代のうちにさまざまな事業の現場に直接入って、手を動かしながら経営支援をしていたので、独立してからの具体的な動き方は事前にイメージできていましたね。
―――なりたいイメージが先にあって、そこから逆算してキャリアを選択したんですね。「〇歳で子どもを産みたいから、それまでに起業しよう」とも考えていたのでしょうか?
ある程度は考えていました。といっても、私にとっては子どもを産むことだけが人生の目的ではないので、そのために起業したわけではないのですが。
ただ、昔から生理不順で、望んだときに子どもができる体質かどうかは早めに知っておきたくて。結婚する前にはブライダルチェック、結婚してしばらく経ってからは卵巣年齢をチェックする検査を受けたんです。どちらの検査でも大きな異常は見つからなかったので、しばらくは安心して仕事に専念できました。
―――ブライダルチェックは旦那さんも受けたのでしょうか?
そうですね。「念のため受けておこうよ」って私から言いました。夫はわりと「健康診断とか怖いから嫌だ」ってタイプなんですけどね(笑)。
―――自分の体について知るのが怖くて行かない、という人もいますよね。
確かに怖さもあるかもしれないけど、早めに結果を知って、対策の時間を長く取れた方がいいと思うんです。ブライダルチェックや卵巣年齢のチェックって、ものすごく高額なわけではないし。
私は「若いうちから検査して、何かあった場合は早めに処置できた方がいいな」「後になって治療するより処置も軽く、かかるお金も安くて済みそうだな」と思う方ですね。
独立2年目に妊娠。融通の利く仕事だからこそペースを落とさず働けた
―――絵里さんは会社を立ち上げて2年目で妊活し、お子さんを授かりましたよね。なぜ、そのタイミングだったのでしょうか?
独立1年目はとにかく仕事が忙しくて、すぐに子どもを持つことは考えられませんでした。2年目になると、ある程度事業の型がわかり、組織も整ってきて。自分の時間をコントロールできるようになったので、そろそろ1人目が欲しいなって。
検査では大きな異常は見つからなかったけど、生理不順もあるし、子どもが欲しいと思った時点ですぐレディースクリニックに通い始めました。
―――クリニックはどのように選びましたか?
ブライダルチェックを受けたクリニックでそのままお世話になりました。院長がまだ30代くらいの男性なんですけど、親切で丁寧に説明してくれるし、わからないことも聞きやすい。ネットを見ても「〇〇先生のおかげで頑張れました」という口コミがたくさんあって、ファンが多いみたいです。
診察までの流れもきちんと整えられていて。患者さんを名前で呼び出さずに番号で呼んだりと、プライバシーへの配慮があるので信頼できました。
―――クリニックではどんな治療を受けましたか?
私は「多嚢胞性卵巣症候群」という、卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しない疾患[i]なんです。卵子がたくさんできるけど、一つひとつが大きく育ちにくいので、卵子を発達させる薬を服用しました。
超音波検査で卵子の育ち具合をチェックできるんですけど、大きさを見ればいつ頃排卵するかわかるらしくて。先生に診てもらって、タイミング法での妊活を3~4か月ほど続けた結果、妊娠しました。
―――妊娠中、お仕事はどうしていたのでしょうか?
妊娠しても仕事のペースは落としたくないと思っていたところ、運良くつわりが全然なかったので、普段通り仕事をしていました。
出産のために里帰りするまではバリバリ働いていたし、出産直前も家で仕事。出産した翌日にはもう仕事の電話がかかってきて、「昨日出産したって連絡したよね?」って(笑)。つわりや妊娠中の体調は人によって全然違うと思いますし、私の場合は幸いにもって感じなので、あくまで一例程度に捉えていただきたいのですが……。
妊娠中でも仕事のペースを落とさずにいられたのは、自分で事業をやっているからかな、とも思います。会社員は仕事の進め方や働き方について会社のルールに従わなければならず、柔軟に働くのがどうしても難しくなりますよね。
でも、私の仕事は自分で意思決定し、パソコンを触り、メールの返信ができ、電話で人に指示を出せれば回せる。おかげで、妊娠生活と仕事の両立に対して不安はありませんでした。
―――キャリア選択によって、自分でコントロールできる領域が拡がっていたんですね。
会社の体制が整っていた2年目だからこそ実現できたことですけどね。1年目は人をあまり採用していなかったり、社員がまだ育っていなかったりして、自分が直接手を動かしていたんです。2年目には社員がある程度能動的に動けるようになっていたので、子どもをつくるならこのタイミングかなと。
夫との協力・プロの助けによって育児とハードワークを両立
―――現在、会社経営と子育てをどうやって両立しているのかも気になります。
出産後は、さすがにプライベートと仕事の時間配分を変えました。仕事に充てられる時間が短くなったのは事実なので、自分がフォーカスする仕事を絞るようになりましたね。他の人でもできる仕事は他の人にお願いして、私は私でなければできない仕事を優先してやっています。
経営者になる前から「ポジションが上がれば、仕事は人に振らなければいけない。会社の代表者なら、自分にしかできない仕事でパフォーマンスを出さないと相応の給料をもらう資格はない」という考えがあったんです。出産がきっかけではあったけど、会社としてのパフォーマンスを向上させるためにも仕事の配分を変えようと思いました。
―――仕事と同じく、家庭でも「やること・やらないこと」の取捨選択をしているのでしょうか?
そうですね。掃除はロボット掃除機、洗濯は乾燥までしてくれる全自動の洗濯機です。料理はほとんどしません。週に1回、料理代行サービスの方に1週間分のご飯を作りに来てもらうんです。子どものご飯は、夫が週末ごとに作り置きしてくれているので、私がそれを食べさせています。
―――旦那さんとはどのように役割分担していますか?
夫は会社員で帰宅が遅いので、平日は保育園のお迎えから寝かしつけまでを私が担当しています。子どもの服をその日のうちに洗濯することと、翌朝の登園準備、保育園へ送るのは夫の担当です。
うちではそれぞれが担当する範囲を分けていて、お互いに責任を持って自分の担当を全うするルールです。どうしても手が回らないとき、例えば私が夕方以降に用事があるときなどは、ベビーシッターさんにお願いしています。
――どちらが何を担当するかは、夫婦で話し合って決めたのでしょうか?
最初はあいまいだったんですけど、あるとき私の不満が爆発して(笑)。それ以降、明確に担当を分けるようにしました。といっても、完全な平等は難しいので、結局はお互いが納得できるかどうかというところなんですけどね。
でも、どれだけ忙しくても、子どもの世話をする時間は「思い出作り」と考えています。子どもの世話をすべてベビーシッターさんにお願いしようと思えばできるけど、そうしないのは、自分も子どもと一緒に過ごす時間を確保したいからですね。
子どもが大きくなったときに、「お迎えはいつもベビーシッターさんだった」と思うのと、「ママが迎えに来てくれた」と思うのでは全然違う気がして。「確かにご飯は手抜きだったけど、いつも迎えに来てくれたな」って思ってくれたら(笑)。だから「ここまでは人に任せてもいいけど、ここからは自分でやる」と決めています。
―――とはいえ、経営者の仕事と子育てを両立していると、絵里さんのお休みの時間が取れないのでは……?
連休のうち1日は、必ずベビーシッターさんに子どもの世話をお願いしています。子どもは可愛いけど、平日も休日もずっとべったりで自分の時間がないと、気持ちの余裕が持てなくなってしまうから。夫と話し合って、「お互いの幸福のために」と決めたんです。
ベビーシッターさんが家に来てくれている間は、家にいて自分の好きなことをしていてもいいし、外出してもいい。好きなマンガを読んだりアニメを観たりして気分転換しています。
―――すべてを自分たちだけでやろうしないからこそ、今の生活が成り立っているんですね。ちなみに、会社員の旦那さんは絵里さんの仕事を理解してくれているのでしょうか?
私がフレキシブルに時間を使えるので、夫は喜んでいます。夫は海外赴任もある職種ですが、私の事業にある程度区切りが付けばついていくこともできる。私は「家族なら一緒に生活したい」という考えなので、融通が利く仕事を選んでよかったと思っています。
もしお互いが大企業の会社員として働いていたら、子育てするにあたってどちらかが諦めなければいけないことも出てきますよね。私は最前線で働きながら子育てもしたかったので、それが叶う選択をしました。
将来の選択の幅を拡げるため、卵子の凍結を決意
―――絵里さんは今年の4月に卵子凍結をしたそうですね。経緯について聞かせてください。
友人が受精卵を凍結した話を聞いて興味を持ったことがきっかけでした。将来のいろんな可能性を考慮して、受精卵ではなく卵子(未受精卵)を保存したかったんですけど、なかなかいい病院が見つからなくて。
どうしようかなと思っていたところ、そろそろ2人目も欲しくなってきたので、以前通っていたレディースクリニックで体調を検査してもらったんです。先生との雑談で「実は卵子を保存したいと思っていて」と言ったら「うちでできるよ」と言われたので、詳しい説明を聞いたうえで、そこで卵子凍結をすることにしました。
―――なぜ卵子を凍結しようと思ったのでしょうか?
いろんな可能性を考えての、あくまでお守りのような感覚ですね。例えば、第2子をタイミング法では授からないかもしれないし、もっと年齢を重ねてから第3子が欲しくなるかもしれない。第2子ができる前に私が突然事故に遭ったり、病気になったりして、今ある卵子がダメになるかもしれない。だいぶ先の話だけど、もし子どもが「妊娠したくてもできない」となっても、私の卵子を使える、なんて時代が来るかもしれない。
将来自分が何かをやりたいと思ったときに、年齢によって選択の幅が狭まるのが嫌で。それなら今のうちに卵子を保管しておこうと思いました。どうせ取るなら、少しでも年齢が若くて、卵子の状態がよりよいときの方がいいなと。
―――卵子の取り方は病院によって異なると思うのですが、絵里さんの場合はどんな方法でしたか?
手術までに何度か自分で注射を打って、卵がそれなりのサイズになったタイミングで取りました。初めは自分で注射を打つのが怖かったのですが、先生に丁寧に教えてもらったり、YouTubeで打ち方をわかりやすく解説している動画を参考にしたりして、打てるようになりました。もちろん個人差があると思うのですが、私の場合は特に体調が悪くなることはなかったかな。
―――費用はどれくらいかかったのでしょうか?
注射代と手術代に、今年の保管料を合わせて80万円ほどで、来年以降は別途保管料がかかります。かかりつけのクリニックでは、妊娠できる可能性が高い40歳までしか卵子を保管できないので、あくまで掛け捨ての保険のようなイメージですね。
でも、もしかしたらいつか医療技術が発達して、状況が変わるかもしれない。何があるかわからないから、将来のあらゆる可能性を取っておくためのお金だと考えて払っています。
常に自分の道を自分で選べるよう、選択肢はたくさん用意しておきたい
―――絵里さんの意思決定って一貫していますよね。キャリアにおいても、プライベートにおいても、早い段階から「どう選択肢を拡げるか」を常に意識してきた印象を受けます。
自由に生きたい気持ちが強いのかな、と思います。やりたいことをやりたいときにできるのが私にとっての自由だから、あらゆる場面で可能性をできるだけ拡げてきたし、自分の道を自分で選べるようなキャリアを形成してきました。
女性は人生のタイムスケジュールの中に、仕事以外の要素がより多く入ってきますよね。結婚は相手ありきだからタイミングを選べないけど、子育てはできる限り想定したタイミングで人生設計に組み込みたくて。なので、早い段階からクリニックに通いながら妊活したり、卵子凍結をしたりといった選択をしました。
ただ、自由に生きるというのは、裏を返せば誰からも守ってもらえない、自分の人生に自分で責任を持たなければならないということ。起業家には、心が休まる暇はほとんどありません。人によってはつらいかもしれないけど、私は気分の切り替えも得意だし、それを楽しめるタイプなんだと思います。
―――なるほど。お子さんが大きくなったら、いつか人生設計について悩むときがくるかもしれませんよね。そのときには、どんなアドバイスをしてあげたいですか?
どう生きたいのか、そのためには自分をどう成長させていけばいいのかを常に考えてほしいですね。将来のことを意識しなくても生きていけるけど、目の前のことだけを考えていると、一つひとつの選択の軸がブレてしまう。「人生は小さな選択の積み重ねだから、将来後悔しないためにも軸を持って生きた方がいいよ」と伝えたいです。
といっても、全部が全部正しい選択をできるわけではないので、失敗しても「また次頑張ろう」って思ってくれれば。子どもに対しては、「こうなってほしい」というガチガチな願望は全然抱いていなくて、最終的にはとにかくハッピーに生きてほしいんです。そのために、今後も親としてできるサポートをしていきます。
我が子とはいえ “ひとりの他者” なので、何かを強制したりはしません。そのぶん私も「ママはママの人生歩むよ。よろしく!」って感じですね(笑)。
[i]参考:聖マリアンナ医科大学病院生殖医療センター「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」
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常に将来を見据え、自分の可能性を拡げるべく努力を重ねてきた絵里さん。「どう生きたいか」「何を幸せと感じるか」は人によって大きく異なりますが、絵里さんのエピソードが、ご自身のライフプランや、キャリアと子育ての両立について考えるきっかけになれば幸いです。
※この記事は妊娠や不妊治療の経過を説明するためのものではありません。ご自身の健康状態をはじめ、妊娠や不妊治療について疑問点がある場合は、医療機関を受診するなど専門家にご相談ください。
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ライター:小晴
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