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#75来たれ日本男児 御殿場口登山道へ

 御殿場口登山道は「男を鍛え、女を磨く登山道」と紹介した。登山道の鳥居から15分ほどのところにある大石茶屋を過ぎると、六合目の半蔵坊まで約4時間の道程だ。左手の二ツ塚・宝永噴火口と連なる稜線から、右手の須走登山道あたりの稜線まで、足元から富士山の雄大・荒涼とした火山灰の山腹に、ほぼ真直ぐ歩むべき登山道が山頂まで続いている。雨・風を凌ぐ岩も木立もなければ避難する山小屋もない。こんな厳しい御殿場登山道に挑む強者達が、今日も鳥居前に現れる。第一声は「おはようございます。富士山の環境を守る保全活動に協力をお願いします」と壊れたレコードように大きな声で同じ口上を繰り返す。協力者か否かは、この第一声に対する反応でだいたい解かる。チラと横目で声の方向に目移すが、すぐに下を向いて黙々と歩く登山者。あるいは声掛けにも反応を見せず、聞こえないフリをして通り過ぎる登山者。以前、トレイルセンターの責任者から「みくりやさんの声は、100m離れたここまでよく聞こえますよ」と言われるくらいだか、登山者に聞こえないわけはないと思うのだが。
 
 午前10時を過ぎた頃、20代と思われる女性が一人、環境保全金の受付テントにやってきた。「おねがいします」と財布から大きなお金を差し出した。受付の板妻さんが「はい、お待ちください。いま両替しますので」と金庫に手をやると「いいえ、両替は必要ありません。全額、寄付します。わたし、富士山を愛していますから」と言いながら箱の中に大きなお札をそっと入れた。あわてて領収書と世界遺産登録10周年の記念木札をお渡しする。領収書を財布に入れ、記念の木札をリュックに縛りつけて、「では、行ってきます」と鳥居をくぐって行った。皆があっけにとられて見送った。
 
これまでもシニア世代の善男善女から、大きなお金の寄付をいただいたことはあったが、妙齢のご婦人から高額な寄付をいただいたことは記憶にない。
「富士山を愛してますから」という妙齢のご婦人の言葉、昨年も一昨年も聞いた記憶がある。同じ人物かどうか定かではないが、「富士山に恋をした」「富士山を愛してます」という妙齢のご婦人が毎年多数、御殿場登山道へやって来る。最も厳しい御殿場登山道に挑む大和なでしこがやって来るのだ。
 
日本男児よ・サムライたちよ、ご婦人の愛を富士山から君のものに。

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