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#17 初老の紳士

 午後3時過ぎ、ハイキング?という身なりの初老の男性が登山道を下りて来た。富士登山ではなく、二ツ塚あたりを散策してきたようだ。御殿場登山道新五合目には、自然休養林を巡るハイキング・散策コースがいくつかあるのだ。
 鳥居をくぐったところで、「お疲れ様でした」と声をかけた。我々を認めると近づいてきて、開口一番、「富士山ではまだこんなバカなことをやっているのか?」と厳しい口調。彼の指さす方に眼をやると「富士山自然植林事業・〇〇:3000本」の看板。
続けて「まだ、こんなことをやって良いと思っているのか?」 この男性、どうやら植林事業にご不満らしい。
ここは中畑さんの出番だ。彼は富士山を学ぶ「同人誌」の重鎮だ。開山日当日、植林事業の看板を見つけると、「みくりやさん、これは環境に良くない事業だと私は思っている。そもそもこの辺りは、・・・・・・・・・・」と解説をいただいていたからだ。
 
我が意を得たりの中畑さん。「私も同意見です。そもそもこの辺りは富士山の2合目で、私の若いころは、噴火の後の火山灰がほとんどで、僅かばかりの木があっただけでした。それが50年以上かけて自然にここまでの森になったんです。富士山は自然遺産なんです。人間が手をかけてはいけないんです。・・・・・・・・以下省略」
 
ここで蘊蓄をひとつ 
林と森の違いは何か? 
林は人の手(人工)が入っている。したがって植林、雑木林などと表現
森は人の手が入っていない。自然のまま。神々が宿る神聖な場所。鎮守の森などと表現
 
中畑さんの説明(持論)に聞き入っていた初老の紳士。「うん、わかった。君のような人が御殿場にいて安心した」と納得した様子で、それまでの厳しい顔が温和なおじいちゃんになって下って行った。

見えなくなると「自然愛好家かなあ」「いや、どこかの大学の環境関係の教授のような気がする」「そうだね!」「そうだそうだ」ということで一件落着。

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