
#16 「死ぬぞー」
24節句では、今年の立秋は8月7日(土)~22日(日)だ。ちょうどお盆の時期にあたる。お盆のこの時期、休暇を利用して富士登山に挑戦しようと計画する人は数多い。下界では、連日猛暑日が続く頃だ。ところがこの時期の富士山は下界の立冬を迎えている、といっても過言ではないだろう。この時期、五合目以上は季節の変わり目で荒れた天気が続く。そんな中、10日に八合目付近で亡くなられた登山者が発見されたとの知らせは、11日の勤務開始時だった。
朝4時からの勤務だが風が強く、簡易テントの受け付けは早々に撤収し、登山者の対応は資材小屋で行うことにした。小雨交じりの風が強い状況ながら、頂上を目指す登山者はやってくる。「上は厳しい状況だと思います。亡くなられた方もいます。今日は止められたら如何でしょう」と自重を促すが、「だいじょうぶ! だいじょうぶ! 鍛えているから」「富士山は逃げませんから」というと「休暇は明日まで」と取り付く島もない。3組くらいのグループは我々のお願いを聞かずに見送ったが、それでも多くの登山者は説得に応じて断念してくれた。
雨と風が続く7時頃、4人組の登山者に登山断念のお願いをしていると軽トラックがすごい勢いでやって来た。我々の前で止まると、運転していた人が窓から身を乗り出して、「止めろ~止めさせろ・死ぬぞ!上は大荒れだぞー」と怒鳴った。八合目の山小屋のおやじさんだ。荷物運びのブルドーザーで下ってきたようだ。亡くなられた方のこともあるのだろう、おやじさんの眼は血走っていた。
我々も同じだ。保全協力金をいただく前に、登山者の安全が第一なのだ。だから、下山者にも声掛けして「お疲れ様、どうでした?」と聞けば、「七合目で引き返してきました。風が強くて・・・」などと教えてくれる。その情報を基に登山者に情報を伝える。我々検収員のできることはそこまでだ。登山を禁止する、止めさせる権限は一切ないのだ。行政も・警察も誰も止めることはできない。登山の実行、断念はあくまで個人の自己責任の範疇だ。しかし、声掛けにより情報を伝え、登山を断念・延期していただいた数は、無視して登って行かれた数をはるかに凌ぐ。「多くの登山者の安全・命を守ってる」との自負心はある。だから、また登山者に声掛けをする。
「おはようございます。 これからですか?」