
#59 検収員の裏の顔
御殿場行きの最終バスが出発してまもなく、ご婦人と中学生くらいの男の子が下山してきた。ご婦人は、われわれの方を見ると「タクシー、タクシーはどこですか?」と血相を変えてこちらにやって来る。その形相に、沼田さん、板妻さんもスルーして席を立って他の下山者に向かう。アレレレ・・・
ご婦人は、「タクシーを呼びました。まだ来ないんですか? 私は子供を無事に連れ帰らなければならないんです」と興奮した状態だ。とそこへ予約表示したタクシーがやってきた。ご婦人は自分が予約したタクシーと思い、「予約した○○です」と名乗ったが運転手からは、「いえ、○○さんの予約です」とつれない返答。ここでご婦人はプッツン。「30分で来るといったのに・・&%$#〇$△#&%$」と混乱して事情が分からない。運転手に聞くとご婦人の予約は受けていて、先客を水が塚まで運んで、トンボ帰りでこのご婦人を御殿場まで」と指示されたという。ご婦人は相変わらず「&%$#〇$△#&%$・・・」だ。ご婦人に「タクシーは間違いなく奥さんの予約を受けています。御殿場市内からここまで30分はかかります。もう少し待ちましょう。まずはお話を聞かせてください」とまずは落ち着かせるため話を聞くことにした。
「吉田口から登って、須走口へ下山する計画だったが、お鉢回りをしたので予定より遅れてしまった。子供を無事に帰宅させるために、下山を御殿場登山道に変更したところさらに遅れて、暗くなってきたので無事に帰宅させられるか不安になって&%$#・・・・・下山道を変更したのは間違いだったのでしょうか」ということのくり返しだ。
話すだけ話させて少し落ち着いてきたころを見計って、「奥さんの選択は間違っていません。正しい選択でしたよ。現に無事に下山してタクシーもまもなくやってきます。奥さんの選択は間違っていません」というと安堵の様子になった。ここでいつもと違うことに気がついた。「おかしいな?いつもだったら駒門さん・沼田さんがやってきて話の輪に加わるのに?ご婦人の剣幕に・・・・かな」などと思っていると、水が塚に行ったタクシーが帰ってきた。30分ほどご婦人の話を聞いていたことになる。ご婦人とご子息を載せて、タクシーは御殿場に向かって出発した。「ふう、やれやれ」とテントに戻ると、「お疲れ様でした。ここは、われわれ二人の出る幕はない。お任せしましょう!」とダンマリを決め込み、成り行きを見学していたそうだ。「ウ-ン、来なくてよかったよ。二人が来てたら・・・」
富士山保全協力金の検収員は、「心の保全」も行っています。