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#60 生きてて良かったね。
今日は冷え込んでいる。寒い。雨・風はないが、防寒のためにカッパを着た。下山者がやって来ると、鳥居の奥にヘッドライトの光が見える。「お疲れ様、お気をつけてお帰りください」声をかける。「ありがとう、寒かった」と下山者は口々に言い残して駐車場方向へ消えてゆく。
突然、4人の若者が鳥居の前に現れた。ヘッドライトの明かりは見えなかった。鳥居の前に着くと、4人とも膝を崩して座り込んでしまった。「大丈夫ですか?」と声をかけながら近づくと、4人とも半袖シャツにスニーカーという服装だ。一人はゴム草履だ。
手には空のペットボトル。「死ぬかと思いました」「舐めていました」と口々に反省の弁。この服装で山頂を目指したものの、8合目辺りで無謀なことを悟り、断念して下山してきたとのこと。大砂走りではゴム草履・スニーカーに火山灰が入って足か痛くて、日が暮れてからは、スマホの灯りでは前が良く見えず、寒さも加わりで「もうだめだ。死ぬかも? と思ったが4人で励ましあいながら、やっと鳥居のもとへたどり着いた」という。「良かったね。みんな生きて帰ってこられて。4人で一緒に行動したから帰ってこられたんだね。空のペットボトルも捨てないで、ありがとう」と賞賛する。
5分ほどすると、無事下山できた安堵感から少しずつ元気を取り戻してきたようだ。「記念に写真を撮りましょう」と促すと、3人のスマホは下山時に照明として使用していたため電池切れ。かろうじて1台が使用可能である。鳥居の前に並んだ4人に「はーい、カシャ、次はガッツポーズ・カシャ、次は万歳・カシャ、最後に反省・カシャ」と撮影した。4人は同じ大学の友人だという。この教訓を忘れないようにすると反省しきり。徳川家康も三方ヶ原の戦いで大惨敗をした時に、己の姿を絵に描かせ、一生の教訓にしたという。
礼を言いながら駐車場へ向かう4人に声をかけた。
「生きてて良かったね!」