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#73 キャッシュレスの幟(のぼり)旗

 御殿場口登山道の「富士山保全金検収員」の一日は早朝始まる。午前3時45分に受付開始できるように家を出る。鳥居前に到着してもあたりは真っ暗闇だ。最初に工事現場などで見かけるバルーン照明のエンジンのスイッチを回す。ボッボッボッボッボッ と苦しそうな音が数秒続いた後、ブル~ンとエンジンが始動する。この灯りの下で、机、テント、登り旗、立て看板、記念品・登山道ガイドなどを連携して手際よく机の上に並べて準備完了だ。保全金をお預かりする方法は、現金あるいはキャッシュレスでお預かりする方法の二つがメインだ。この他、インターネットを使用する方法、コンビニを利用する方法があるが利用頻度わずかだ。キャッシュレス決済は一昨年から始めたが、最初のころは認知度が低く、1パーセント程度の利用率であったが、今年度は、10パーセント近くに上向いているように感じている。受付横に配置している「キャッシュレス決済もできます」と印刷された、のぼり旗の効果もあるのだろう。

 三連休の最終日、今朝は快晴無風の良い天気だ。夜の帳が開けてバルーン照明を落としたころ、ご婦人3名のグループがやってきた。皆さん手に財布を持っている。「富士山 環境保全にご協力をお願いします」の呼びかけもいらないくらいの理解者だ。順番に受付をしていると、その中のお一人が「キャッシュレスできます」の幟(のぼり)旗に気がついた。「あら、キャッシュレスできるの?じゃあ、私はキャッシュレスで」と言われた。「では、こちらに」とご案内してキャッシュレス対応を始める。I PADに入力して、「カードをここに」とご案内する、が読み取り機がなかなか反応しない。(あれ、手順を間違ったかな?いや、間違いない)と心の中で自問自答を繰返すがここは待つしかない。ご婦人は(なにやってんのよ。早くやってよ)という気持ちであろうが、こちらはご婦人以上に(操作は間違っていない、早く反応してくれ)との気持ちでいっぱいだ。そんな時、「キャッシュレスできます」の幟旗が、そよ風に吹かれてご婦人の肩先に二度・三度触れた。とご婦人は「いまやってるでしょ。もう少し待って! 我慢しなさい」と、幟旗に向かって、子供を諭すように言った。直後に「ビッ」と決済完了の音が鳴った。「ほら、終わったでしょ。 焦らなくてもいいのよ」と再び幟り旗に。こちらの焦る気持ちを見透かして、幟旗を相手に一人芝居をしていただいたご婦人。

「ありがとうございます」貴女の優しさに感謝しています。
 
 
 

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