見出し画像

#46 母は強し

 今日の勤務は午後、板妻さん・沼田さんとわたしの3人組だ。日が暮れるのにはまだ時間がある午後4時過ぎ、一人のご婦人が鳥居をくぐり真直ぐわれわれのほうに向かってきた。ご婦人の顔はややこわばっている。「すみません、助けていただけませんか?」とご婦人。「どうかされたのですか?」と聞くと、「息子が足を痛めて歩けないんです」という。ご婦人の出立は、背中と胸にリュックを担いでいる。おそらく遅れている子供のものであろう。「それは大変だ。どのあたりですか」と聞くと次郎坊を過ぎたあたりから足の痛みを訴え徐々に遅れ始めたそうだ。
「わかりました。では、まずリュックを下ろしましょう。」
と身軽になったところで
「お子さんは、男の子ですか?、女の子ですか?」
「男の子で中学2年生です。」

「服装は?」と質問したところで
「私もついていってもいいですか?」 
「もちろんです。その方がありがたい。」
と腰を上げた時、「私が行きましょう!」と沼田さんが名乗りを上げたが、先日、大石茶屋まで行くのに高齢の女性に追い抜かれたという話を聞いていたので「大丈夫、私が行くよ」というと、「はい、じゃあお願いします」と変わり身の早さ。なんだかテレビに出てくる芸人のギャグのようだ。
 
 まず大石茶屋に向かう。登り始めた頃は、「ついて行く」と言った通り、横に並んでいたが、大石茶屋が見え始めた頃には主客転倒、5mほどの差をつけられてしまった。富士登山を終えた女性とは思えない速さである。母親の子供に対する愛情は、かくも強いものか? それとも・・・・。この時「私が行くよ」なんて言うんじゃなかった」と反省していると、ご婦人の足が止まった。「いました」と指さす方向に目をやると、金剛杖を両手で持って体を支えている少年の姿があった。大石茶屋から50mほど下山してきている。子供の無事な姿を確認すると「車を鳥居の所まで持ってきます」というと、一気に駆け出して行った。少年に声をかけ、一緒に下山する。ゆっくりと10分ほどかけて鳥居の下に到着した。母親の運転する車が直後に到着。子供を乗せ、礼を述べて帰っていった。ふう一件落着
 
この救難事案は、公式にはカウントされていない。
(あのペースで次郎坊まで登っていたら・・・・私の救難隊が必要だったかも!)

いいなと思ったら応援しよう!