#51 海猿

　明日から８月という日の最終バス。降りたのは若者一人。健康チェック・保全協力を呼びかけるとやってきた。リュックを背にした彼は、屈強そうな体つきをしている。
「いいからだしてますね！」　この一言は、女性には絶対に言えない。「はい、ありがとうございます。少し鍛えてます」　「お仕事は？」「海保です」　「海猿ですか」　「はい」　「国境警備・海の安全、いつもありがとうございます」　「はい、みんなで頑張っています」　気持ちの良い若者だ。鳥居の前に進む彼に「写真撮りましょうか？」と声をかける。「えっ　いいですか？」と彼。スマホを受取り構える。彼はごく普通のポーズだ。「カシャ・カシャ」二度シャッターを押す。「じゃあ次はガッツポーズでゆきましょう」というと「脱いでいいですか？」と言う。登山客・観光客も周りにはいない。まだ鳥居を超えた聖域にも入っていない。「いいでしょう」というと、彼は長袖シャツ・Tシャツと順に素早く脱ぐ。ウう～ん」　鍛えぬかれた上半身が現れた。割れた腹筋、盛り上がった大胸筋・・・。彼はボディビルダーのような姿勢をとる。
「カシャ・カシャ」と２枚ほど撮影すると素早く服を着た。スマホの写り具合を確認すると「いい記念になりました。ありがとうございます。いってきます」と鳥居をくぐって登っていった。
 
「海猿は鍛えているね。日本の海は安心だ。」と神山さんが呟いた。