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大家という稼業(タイミングが9割)

 ここ10年以上もの長きにわたり、不動産投資をして、損をする方が難しいというイージーモードな市況が続いておりました。
 東京の人口も世帯数も増え続け、お家賃は休まず入ってくる、不動産価格も上がり続ける。多少の高値掴みをしても、気が付いたら市況が追い付いて、追い抜いていく。

 10年前に買った物件は、ボロいやつならNOI10%くらい出ているので、100で買ったものが10年でお家賃インカム100を稼いでくれて、物件はますますボロくなっているのに経年減価ところか150くらいに値上がっている。
 つまり100の投資額がインカム100とキャピタル50あわせて10年で都合250になっている計算だ。3割自己資金でやっているなら30が180(250-元金70)。そこから金利15としても、当時投資した人の自己資金は普通にやっているだけでみんな5倍にはなっているだろう。

 これが同じ物件をいまの高騰した市況で買って、まるっきり逆流するとどうなるか考えてみる。150で買ったらNOI6.7%なので10年でお家賃インカム67。物件価格は150が100に値下がるのでキャピタルで-50。あわせると10年で150の投資額が167になる。偉大なるお家賃パワーのおかげで不動産価格が2/3まで値下がってもまだかろうじて黒字だ。3割自己資金でやっているなら45が62(167-元金105)となるわけだけど、ここから金利20を引いたらマイナスに沈むだろう。10年もかけて投資したのに自己資金が減ってしまうことになる。

 自己資金3割という、一般的に安全サイドにふった投資でもこのありさまで、この市況のあまりに大きな波の前には、一人の投資家が出来る努力というのはずいぶんささやかな気もする。
 100を95にしようと指値交渉していた時間。買うべきかどうか悩んでいた時間。相場家賃を調べ、空室率を調べ、最寄り駅までの道のりを歩き、建物をみて必要な修繕費を積み上げ、相見積を取って、施主支給でコストカット。おしゃれなアクセントクロスでバリューアップ。ぜんぶムダだった。何も考えずに、少しでも早く、ぜんぶ買えるだけ買っておけばよかった。
 地獄への道は最高益で舗装されている。ギリギリまでアクセルを踏んだ人が一番儲かる仕組みだから、こんなの結果論でしかないのはわかっている。もしかしたら、物件選別におけるその努力みたいなものの積み上げのおかげで、急に不景気が来た時に紙一重でカーブで事故を起こさずに生き残れた不動産パラレルワールドがどこかにあるのかもしれない。そうでも思わないとやってられない。

 とにもかくにも斯様な有様であるから、同じ物件でも、いつ買ったのかでぜんぜん結果が変わってしまう。不動産投資はいつ始めたのかで大部分が決まる。不動産投資はタイミングが9割。

 そしていまこの2021年のタイミングから不動産投資をスタートするのは本当に難しいと思う。そりゃ焼け野原みたいだった2009年の当時、とても不動産に投資するなんて雰囲気でもなければ、融資も冷え込んでいたので、そこで買える態勢をメンタル・財務ともに準備できていた人は限られていたと思うけれど、どの物件を買っても失敗しようがなかった。さすがに今はお家賃だけで借金を返していくつもりなら高すぎるし、売り物件の在庫に較べて買いたい人が多すぎる。買主の粗末な扱いをうけるにつけ、数少ない買主をブローカーがいつまでも焼け野原で追いかけていた頃を思うと隔世の感がある。

 もちろん相対取引だからいまもチャンスはどこかにあるだろうし、デベロッパー業に進出したり、高く買ってさらに高く売るような収益機会はあると思うけれど、ただ不動産を借金して買って、お家賃をもらって、右から左に返済してるだけで、コンクリ貯金や土貯金ができるという、ぼくの愛した他力本願な不動産投資はどんどんやりづらくなっている。
 ファイティングポーズは崩さずに買付は出し続けるけれど、正直なところこうも物件が高すぎると何をしていいのかわからず困る。他力本願以外の何ものでもない稼業だということをいまさらながら身につまされている。



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