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ダボス会議2025に参加&登壇してきました
こんにちは、平野未来です。
世界経済フォーラム(WEF)が開催している、World Economic Forum Annual Meeting 2025、通称ダボス会議に参加してきました。
Young Global Leaderに選んでいただいたのは2022年だったのですが、三人目の子供が産まれたばかりで病気もあったので参加できず、ようやく初めて参加することができました。
今回のテーマは'Collaboration for the Intelligent Age'で、私個人にとってもぴったりなテーマでした。
色々なセッションを聞いたり、AI関連の人とも話しましたが、AIをどうインプリしていくか、規制など、AIの実用化を前提にしていた議論がほとんどでした。
昨年参加していた方に聞くと、昨年は「AIは良いのか?悪いのか?」という議論がメインだったとのことで、1年で実用化に大きく進んだようです。
パネル: AIエコノミー
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1. アメリカ vs グローバル協調:トランプ政権の姿勢に懸念
トランプ大統領が再任し、アメリカが国際協定や多国間の枠組みに消極的になるのでは?という声が多数。AI技術を世界中で普及させるには、国際的な協力が不可欠。でも、アメリカが「俺たちだけでやる」的な方向に進むと、他国の成長を妨げるんじゃないかという懸念。
「グローバルに協力しなきゃ、AIの普及で大きな損失を生むかも!」という声が強く、アメリカのリーダーシップを期待しつつも、そのアプローチが批判されていました。
2. アメリカと中国のAI軍拡競争の恐怖
アメリカと中国がAIを使った軍拡競争に突入する可能性が指摘されていました。イアン・ブレマー氏が「次のキューバ危機(核危機みたいなこと)がAIで起きるかも」と発言。
「軍事利用を避けるための国際的なAIガバナンスが必要!」という意見が出ましたが、アメリカと中国の信頼関係がゼロに近い今、実現はハードル高そう…。
3. ヨーロッパの厳しい規制とアメリカの緩すぎる規制
ヨーロッパは「AI Act」で信頼と安全を重視。一方で、アメリカは規制を簡略化しすぎて、逆に問題が起きそうだという懸念も。バイデン元大統領の100ページを超えるAIリスクについての規制も、トランプ大統領になってゼロへ。厳しすぎるとイノベーションが鈍化し、緩すぎると安全性が保てない。難しいバランスではあります。
「企業やスタートアップが成長しやすい環境を作りつつ、安全性も確保する方法を考えないといけないよね!」という議論が交わされました。
4. AI技術の普及は「デジタル植民地主義」にならないか?
発展途上国でのAI普及が、新しい形の「デジタル植民地主義」になるリスクも議論されていました。例えば、データセンターを建てても、現地の人々のニーズを無視して進めると、ただの「技術の押し付け」になってしまう。
「現地のインフラ整備やスキル育成をきちんとサポートしないと、格差が広がるだけ」という意見が出ていました。
5. 民間企業の責任はどこまで?
「政府だけに頼らず、企業も責任を果たすべきだよね」という声も。Microsoftのブラッド・スミス氏は「地域社会と協力し、透明性を確保することが企業の使命」と話しました。でも、他の参加者からは「それ、本当にやってる?」と疑問の声も。
「民間セクターがリーダーシップを発揮し、政府と協力することでAIの普及を進めるべき」というコンセンサスが形成されつつありました。
パネル: AGI
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このパネルはかなり意見が分かれたパネルでした。
AI開発の「スローダウン」の是非
大きな利益(医療・環境・経済など)をもたらすAIを「リスクがあるからといって開発を遅らせるべきではない」と主張する意見と、
「制御不能に陥るリスクを考慮して、まずは安全性を確保するために進歩を一時的に遅らせるのも必要」という意見
の間で対立が見られました。最後にモデレーターの方がオーディエンスに、スローダウンすべきかしないべきかを問いていましたが、オーディエンスも反応が真っ二つに分かれていました。
AGI(汎用人工知能)を追求すべきかどうか
「AGIによってすべての人が高度な“知能サービス”を利用できるようになり、生産性と生活の質が飛躍的に向上する」と肯定的に捉える側と、
「AGIの開発はコントロール困難な存在を生み出しかねず、リスクが非常に高い」として慎重・否定的に見る側
のスタンスの違いが顕著でした。
自己改善AI(自己最適化・自己進化)のリスク
「AIが自らコードを改変し、指数関数的に賢くなった末に、人類の管理を超える可能性」があるとする懸念
「実際には物理法則やエネルギー制約が存在するため、一瞬で暴走するようなシナリオは現実的ではない」とする反論
という対立もありました。
「人間レベルの知能」を持つAIと制御の問題
「AIは単なるツールにとどまらず、人間と同等、あるいはそれ以上の“エージェンシー(主体性や目的意識)”を持つようになり得る」という懸念
「最終的にはプログラム可能であり、問題が起きるたびに修正すればよい」という楽観的な意見
の間で意見が分かれていました。
オープンソース vs クローズドソース
「競争力や民主性、多様な価値観を反映するためにもモデルはオープン化すべき」という主張と、
「危険な能力を持つモデルが野放しになるリスクがあるため、強力なモデルほどクローズドにして規制する必要がある」という主張
という対立軸がありました。
規制・国際競争・安全保障のバランス
「国際的なレースの中で、自国だけが開発を遅らせるわけにいかない」という現実的な視点
「核兵器開発時と同様に、国際的な条約や規制を整備すべき」という安全保障の視点
が交錯し、議論が複雑化していました。
日本では予定調和的にパネルが進むことが多いので、意見を対立させてディスカッションしていくパネルは新鮮でした。
パネル登壇: イノベーション
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私は"Unlocking the Innovation Economy"というセッションで、SDGsを達成するために都市が何ができるかというパネルに登壇しました。
アフリカや中南米などの登壇者がいたこともあり、まだまだイノベーションのエコシステムができていない国・都市で何ができるかについてディスカッションが及びました。
日本では昔、VCがなかった時代、政府による未踏がアーリーの投資家の役割を果たしたことや、最近だとディープテック系スタートアップと大企業とのオープンイノベーションを援助していること、そして現在はスタートアップ育成5か年計画として10兆円の投資をしてスタートアップの数も1.5倍に増えているなど様々な効果が出始めていることを発言しました。
AIについても、むしろ人間よりも信頼性があるという議論もありました。
女性のエンパワーメント
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世界のリーダーたちと話す中、日本はジェンダーギャップが140か国中125位だと伝えるとみんなに驚かれました。
サービスの品質が高く、地政学的リスクが高まる中、安定していて信頼できる優等生な国となった日本に、そこまで原始的な部分があったのかと顔に出ていました。
「そんなに女性差別がある中、Mikuはどうやってダボスに来るまでになったの?」と皆に聞かれ、「いやいや、この業界に20年間いただけですよ」と、日本人かつ女性特有の謙遜とともに答えていましたが、日本への帰路の中、それって本当に?と今自分に問いかけています。
20年前にAIが世界を変えると思って起業し、様々なHard Thingsを乗り越えてきました。先見の明があった部分もあるとは思います。
でも、今はまだ何もなき産業だけど、数十年後に成長する業界を掘り当てること自体が至難の業だし、不確実性の高いことをずっとやり続けないと女性は活躍できないの?
それって裏を返せば、私自身が女性は活躍できないものだと否定していることにならない?と頭の中でぐるぐるしています。
今回のダボス会議で日本人の登壇者は数人とそもそもごく少ない中(南アフリカやブラジルの半分程度なので、これはこれで別途問題)、日本人女性の登壇者は私一人でした。
男性だったら「だって俺はすごいから」とストレートに思えるのかもしれません。
でも、私は「努力しただけだし」「女性枠というのもあったのだろうし」と思ってしまう。
なにか私の考え方や行動でスペシャルな部分があったのか考えることを、今回のダボスからの宿題としたい。
居心地の悪い問いかけではあるのだけれど、娘や姪っ子たち、後輩女性のヒントになるような再現性があることを見つけられればと思います。
そんな中一番楽しかったのは、アフリカ初のユニコーンとなった女性起業家のFatouさんが主催をしてくれた"Female Unicorn Entreprenaurs"という会。
10名強のプライベートな会だったのだけれど、ものすごくポジティブなエネルギーにあふれていました。
出席者のうち半分強がユニコーンもしくは上場企業の女性起業家/経営者で、私のガラスの天井も少し打ち砕かれた感じがする!
様々な出会い
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世界の超有名人がうようよ歩いているのは本当でした。AI業界の第一人者のAndrew Ng教授とも話せました。
また、古い友人たちとも偶然出会えるのも良かったです。
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(こちらは古い写真。私が若い…)
世界のリーダーたちと話をする中で、グローバル企業の複数社がシナモンのSuper RAGを導入したいと言ってくれて嬉しかった!
日本企業が使ってるということで信頼感に繋がっているところはあるはずなので、日本に感謝です。
まとめ
「AIは電気のようなインフラ (Microsoft Brad Smith氏)」「一人で行っているような小さな仕事さえもAIが行うようになる(Andrew Ng教授)」「私たちが人間をマネージする最後の経営者(Salesforce Marc Benioff氏)」「次のキューバ危機がAIで起きる(イアンブレマー氏)」「アメリカをAIとクリプトの世界的首都にする(トランプ大統領)」と、混沌としながらも大きな変化が起きる直前であることを感じたダボス会議でした。