またひとり
『どしたん?話聞こか?』
彼女はいたずらっぽく微笑み、パピコの片割れを手渡してくる。
「、、、はぁ、ども、、、」
受取りはするものの、口にする気にはとてもなれない。
『となり、座っても?』
指をさす場所は、となりと言っても、もう一つの空いたブランコの椅子のことだった。
そう、気づいたらこのブランコに座っていたのだ。
「勝手にどうぞ」
彼女に視線を向けるでもなく、ただ、もらったパピコをみつめる。溶けかけて、柔らかくなってるのがわかる。
『高校生?大学生?ウチ高3。多分、当時のままだから高3』
なんなんだこの子は。なんでこんな夜中の公園で女の子に絡まれてるんだ。そもそも俺は
「なんなんだよ、、、白い部屋だったり雨の路地だったり、ロボットの手の次は女の子かよ、、、なんなんだよ、、、」
口を開いた途端、それは制止できぬまま、吐き出される。思いのほか大きい声になっていたことは、彼女だけではなく自分もまた驚かされた。
『あー、、、ごめんね?ウザかったよね。ごめん、、、人来たの、久々だったからつい嬉しくって、、、』
彼女はスッとブランコに座り、軽く前後に揺れる。
金属の軋む音が、夜空に吸い込まれていく。
「、、、高3。おれも高3だよ」
彼女はそれを聞いて、少し微笑んだ。気がした。
『うん、、、そっか、キミは、他の子とは少し違うね。気づいてる感じ。ここがどこかもわかる?』
キィ、、、キィ、、、と無機質な音は、思いのほか耳障りではなく、リズムよく奏でていく。
「そうだな、、、俺、恨まれてたみたい。理不尽だよな、大切な人を目の前で残して」
キィ、、、、、、
ブランコの揺れる音が止まる。気づいたら涙がこぼれていたようだ。制御できない感情がたくさんこみ上げてくる。
彼女はそれに対して、声を掛けるでも、慰めるでもなく、ただただこちらを見つめている。
『大切な人、ね、、、ここはね、後悔や未練。生きているのか死んでいるのか、迷ってる人が迷い込む世界。ほんとーは、だめなんだけどね。やーっぱ、私には無理だぁ、、、』そう言うと彼女はブランコを降り、しゃがみ、こちらに目線を合わせ、改めてこちらに向き直る。
『ねぇ、生きたい?生きて帰ってどうしたい?』
涙を、拭う。
「生きたい、大切な人を、守りたい」
彼女はまた、いたずらな笑顔を見せる。
『はい、ではこれはぼっしゅーでーす』
もはや液体と化していた未開封のパピコを回収される。
『いくよ。命に群がる奴らに気をつけてね』
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