見出し画像

柊は揺れる

『ごめん、、、』
こちらに背を向けてあからさまに落ち込む。その姿がかわいそうにも愛おしくも感じたのは嘘じゃない。
後ろから大きく成長した背中に抱きつき、頭を撫でる。
「ううん、謝らないで?ほら、私だって、赤ちゃんできない体だからさ。あまり落ち込まれると、私も辛い」
地肌の背中から心臓の音が鼓膜に直に伝わる。
「私達って、生まれてから、これからもずーっと幸せなんてなれない、望んじゃいけないんだよ。そういう運命なのかも」
彼は振り返り、優しく包むように抱き、キスをする。
冷たい、色のない、口づけ
空気を変えるためか、彼はわざと作り笑いを見せ、何かを思い出したかのように立ち上がり、鞄をさぐる。
簡単にシャツをはおりなおした二人は、ベッドの上で向き直る。
『ん、誕生日』
長方形の箱を渡される。
「げ、なに?気持ち悪」
そんな悪態なんて聞く耳も持たず、こちらのリアクションを待ってる。
包装を開け、箱を開ける。

髪飾り。オレンジ色の花のついた、、、

「え?違う子と間違えてない?」
中身を見せつける。
『お前ほんっと最悪だな』
そうなると、これはやはり私への
「いや、私、花ではなくない?」
おどけて笑う私を無視して着替え始める。
指で花飾りを撫でる。
これはなんて花だろう。
『俺は、お前に一緒に来てほしい。夢來だって喜ぶに決まってる』
気持ちも心も冷める音がする。
「なんで、、、夢來がでてくんの?」
『家族だからに決まってんだろ?』
嫌味でもなんでもない、心からそう思っての発言なんだ。こいつは、、、
『俺達は幸せになれる。夢來も撫子も、俺が幸せにする』
さっきまで抱き合ってたのが嘘のよう。嫌悪感が満ちてゆく。
「夢來がお前についていくって決めたんだろ?好きにすればいいじゃん」
何でもかんでも見透かしたように。
気に入らない。気に入らない。気に入らない。
『ほんとに夢來が自分で決めたと思ってんのか。呑気なナイト様だな』
煽り。
『撫子。夢來の力はホンモノだ。その力がこの世界を変えてくれる。俺を、夢來を、お前を。変えてくれるんだよ』
意図せず涙がこぼれる。
泣きたくなんてないのに。絶対に泣きたくないのに。
「お前の、そういう、ロマンチストなとこ。昔から嫌い」
逃げるように部屋を飛び出す。
いつもそう。
昔から勝てない。
力強く握りしめた花の髪飾りは、パキリと音を立てた。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?