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ホコリまみれのサーキュレーターがスティーブ・ジョブズ氏の名言を自分事にしてくれた

猛暑の夜。
風呂上がりのサーキュレーターが最高なのはご存じ?

まだ4月だけれど「桜が散ったから、もう夏に設定しておきました」というぐらいに立派な暑さ。なのでサーキュレーターをリビングの目立つところにひっぱりだした。

このサーキュレーターとは今年で3年目の付き合いになる。ぱっと見は出会ったころとなんら変わりなく白く清潔。でも顔を近づけてよく見れば白いけど薄汚れていた。隙間という隙間にホコリをたっぷりとたくわえている。

隙間という隙間をウエットティッシュで攻めに攻めて
「まぁこんなもんかな」と、
「スイッチいれますよ」と、
腰をかがめたとき、異彩をはなつものが見えた。

前面カバー。その奥の羽根という羽根に、モリモリのホコリが森をつくっていて、そこは腐海の森でした。なかなかに立体的なホコリが、檻(前面カバー)の隙間を目指していて「あとちょっとなんだ!手をかしてくれ」みたいに手.......というか触手?みたいなものを伸ばしている。

とじこめたつもりはないから、いなくなってくれるならぜんぜん手をかすし、むしろ自力で撤退してほしい。

「さぁ!つかまれ」って、クルクルまいて細くしたウエットティッシュを檻の間に差し込んだ。でも絶妙に羽根までとどかない。とどいたところで、力をこめられないから、ただただホコリをくすぐって「キャッキャウフフ」になるだけだ。

ダイレクトに羽根を清めたい。そのためにもまず前面カバーを外したい。しかしどうにもこうにも外れない。

前面と背面の結束力がハンパない。

こうなったら吸うしかないな、と。
掃除機の吸引力を「強」にして、吸い込み口をカバーにおしつける。「アーレー」と叫ぶまもなく、腐海の住人たちがグルングルンと渦をまいて、仄暗い筒の中に吸い込まれていく様を想像した。しかしやつら(ホコリ)、あまりにも余裕だった。最大の吸引力が迫っているのに、水草のようにたゆたうだけ。

羽根と腐海の住人、結束力がハンパない。

スマホをとりだす。
「サーキュレーター カバー はずれない」
と、検索。

我が家のサーキュレーターには、前面カバーと背面カバーが手と手をとりあっている連結部分がある。そこは爪とよばれていて。指でグイと爪を真下に押すことで、前面カバーがパカッと外れる。

「とにかく爪を押す。すべてはそこからはじまる」という情報がわんさか見つかった。

ところで、それについてはすでに知っている。「爪」がはじまりのおわりだって分かっている。爪に魂が宿っていたら通報される勢いで押しつづけている。でも、まるで手応えがない。内側から誰か押し返してる?ってぐらいビクともしない。

「倒したらいいじゃない」と母。
以前。あやまってサーキュレーターを床に転がしてしまった。そのとき、ロケットが発射するみたいに勢いよく背面から前面カバーが分離したのだ。

だからまた倒せばカバー外れるかもよ、ということらしい。

今、サーキュレーターは油断している。無防備な背をわたしに向けている。蹴りたい背中がそこにあった。

しかし相手が無生物だからといって、暴力で解決していいのだろうか。それに転倒させたら、確かにカバーは外れるかもしれないが、外れたら困る部品までも外れてしまう可能性がある。

その時だ。「われこそは」と名乗りでてきたものがいた。ピンセットだ。セルフネイルにハマっていたころ、爪にキラキラの石をのっけるのに活躍していたピンセットが「爪といえばわたしでしょう。爪の一大事ならわたしでしょう」と満を持して登場した。

サーキュレーター側も
「ピンセットならば話は違いますね」
と思ったみたいで。指のみでどうにかしようとしていた時の半分にも満たない力で、いとも簡単に爪がへこんだ。

スティーブ・ジョブズ氏の名言のなかに
「未来を予想して、点と点をつなぐことはできない。でも、いつか点と点がつながるかもしれないから、いろいろ経験(点)しておこうぜ」みたいものがあって。

それはジョブスだからよ。ジョブスがセレクトする経験だから、うまいこと点と点を結べるのよって思っていた。
でもそれは違う。わたしにすら通じる万能の名言でした。

過去の私がセルフネイルにハマったからこそ、今ここにピンセットがあって、サーキュレーターにバイオレンスすることなく羽根からホコリを取り除けた。

点と点がつながったのである。
「無駄な種ばかりまいてるよなぁ」
と過去の自分に対して苦々しく感じてばかりいる。
でも、こうやって唐突な花咲かじいさんの来訪があるってわかったから、これからも点を増やして人生を水玉にしておこうと思った。


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