愛をささやき続けた結果、土下座することになった。
「君に棘はいらないよ。なぜなら僕が君を守るから」
そうサボテンにささやき続けたら、想いが通じて武装解除。見事に「棘なしサボテン」をつくるのに成功したというエピソードがテレビから流れる。
それを見て、ニヤリと不吉な笑みを浮かべたのは小学生のときだ。
当時の我が家には、お向かいのおじさんからゆずりうけたサボテンが20鉢ほどあった。
わたしはさっそく「俺が守る。愛してる」とつぶやきながらサボテンたちに水を与えるようになった。この時は、まだわたしの言葉に愛はこめられていない。
自分の言葉で棘が抜けたら超能力みたいでおもしろい。「おらワクワクすっぞ」という純度100パーセントの好奇心オンリーだった。サボテンはただの実験台だったのである。
だが不思議と毎日愛をささやくうちに本当にサボテンが愛しく思えてくる。愛されるより愛したいがマジで芽生えたのだ。
以降、私の愛は日に日に加速する。
まず、すべてのサボテンに名を与えた。
そして天気の良い日には一鉢一鉢を丁寧に玄関先にならべて共にひなたぼっこ。
「暑いかい?故郷の砂漠を思いだすだろう?」
と語りかけた。(故郷はお向かいのおっさん宅だ)
門から玄関までの短い一本道を通せんぼするサボテンの群れ。それはとても邪魔だったらしい。
ある日の夕暮れ。浄化槽の点検をしにきた業者さんによって愛しい子たちが蹴散らかされてしまった。
「ぎゃああああああ!」
当時のわたしは泣き虫だ。瞬時に視界いっぱいに涙がたまる。無惨な姿になったサボテンたちが縦に横に引き伸ばされてゆらゆら揺れてみえた。
業者さんはオロオロしながらも謝ってくれず、わたしは激怒した。しかし母から「業者さんは悪くない!サボテンが邪魔すぎる!」と激怒返しされ、それに対してまた激怒した。
幸いサボテンたちは踏み潰されたりはせず、植木鉢からポンっと地面にダイブしただけだった。
とはいえわたしは執念深い。
実は今もまだ激怒している。
泣いて笑って激怒して、
あっという間に数週間が過ぎたころ、
忘れもしない事件がおきる。
その日。自室にはいると愛しのサボテンたちがクニャと体を折り曲げていた。
「お辞儀!」
なんと礼儀正しいのだろう。日頃の感謝のつもりだろうか。感激だ。
しかし、いつまでたっても頭をさげつづけるサボテンたちに不安がよぎる。
あれ。もとの姿勢にもどれるんだよね……?
そうっと緑の体に触れると指先にビチョッとした感触。サボテンの内部から水が染みでていた。水のあげすぎで根腐れしてしまったのだ。
「うわあああああ!ごめんなさい」
土下座のような姿勢になって泣いた。サボテンは土に、わたしは床に、いつまでも頭をくっつけていた。
愛しいサボテンは全滅し、
その日からわたしは全ての植物の敵になった。花屋に立ち寄ると「サボテンキラーめ!こっちくんな」という視線を感じるのだ。
しかし今日。このnoteを書きながらふらっとのぞいた花屋の店先で出会いがあった。
桃色の棘をはやしたまんまるのかわいい子。
「棘まで愛して」
「水やりの頻度に気をつけて」
そんなささやきが聞こえた。
何度でも蘇ってほしいと願いをこめ、
新しい愛にフェニックスと名づけた。
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