さくらんぼ狩り

『やまこう紺野果樹園』(福島市飯坂)で、こうして行うサクランボ狩りは、友人知人で集う恒例年行事になった。今年で5度目になる。2020年、コロナウイルス感染防止対策でさくらんぼ狩りに観光客が呼べない事態に。果樹園にとっては死活問題だった。少なくとも、そんな知人の果樹園を仲間たちで何とかしようと始めたさくらんぼ狩りだった。「昨年の猛暑の影響で、今年のさくらんぼは小さいですが、その分甘さは濃いですから、ご賞味ください。」との園主さんからのご挨拶でいよいよ狩り開始。参加者は目移りしながら果樹園の中に散らばっていった。僕にとっては、これが今年初物のさくらんぼ。そんなさくらんぼを一粒摘むと、優しく斜めにそれを持ち上げてやる。すると、小気味よくそれは茎から離れた。もう僕もさくらんぼの収穫は慣れたもの。皮までもが柔らかく、木成りで完熟していることが指先からでもわかる。一噛みしただけで果汁が口の中を覆いつくすほどの強烈な甘さだった。後は次々にさくらんぼを口の中に放り込んだ。確かに、これまでに比べてやや小ぶりかもしれないが、その分、甘さが濃く、どれも本当に美味しいサクランボだった。
子供の頃からの僕の親友の深谷秀晴さんがお孫さんを連れて、これに家族で参加してくれた。同級生がお爺ちゃんになった事実に、嬉しさと過ぎ去った年月のことを思わない訳にはいかない。それぞれの人生をここまで歩んできた。ある意味では支え合ってきたとも言える。そして僕らは来年50歳になる。全く、やれやれだ。親友は孫と共に来年も参加してくれると言う。この孫の成長と僕らが老いていく姿を互いに見守る機会として約束を交わした。
気温は真夏日。様々な繋がりでこれに参加している30名ほどの人たちの笑い声や「この木のさくらんぼが甘いよ。」との熱さをものともしない子供たちの楽しそうな声がとても心地いい。南風が熱気を運んでくる。汗が頬を伝った。夏はもうすぐそこまで来ている。
木幡浩福島市市長が果樹園の視察に訪れていた。暑さが続き果実の成熟が早く、出荷には非常に苦悩している今年のその現状を園主さんが市長に伝えていた。狩りに参加していたジャーナリストの大和田新さんが「お母さんが今朝骨折して市長自ら病院に届けて直ぐここに来たんだ。」と、この一場面の背景を僕に教えてくれた。一次産業化を取り巻く現状は厳しい。市長は母への心配を抑えつつ、果樹農家の視察に訪れていた。僕は木幡浩市長に好感を覚えた。僕の母と父は今さくらんぼ狩りを楽しんでいる。さくらんぼに親の健康を願うなんて意味不明だが僕は何故か至極適当に思えた。市長は自ら脚立に登と「日差しをたっぷりと浴びたさくらんぼが実に美味しいんだよ。」と言って、笑顔で子供たちに手渡していた。僕も市長からそれを受け取った。そのさくらんぼは絶品だった。その一粒は僕の感情を揮わせる呼び水にもなった。沢山の人に支えられて、僕はこうして今生きている。生きていられる。そう実感するそれは特別な一粒になった。
さくらんぼはまた一念をかけて育てられる。僕も来年のさくらんぼに出会うまで成長しなければならない。夏の暑さにも冬の寒さにも負けることなく。
来年のさくらんぼはどのような味がするだろうか。今から楽しみで仕方がない。

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