米沢牛がやってきた話
私の両親は山形出身だ。母方の祖母以外の3人は、私が生まれる前に亡くなってしまっていたりしたし、母方の祖母も私が幼稚園生の頃までずっと入退院を繰り返していたので、おじいちゃんやおばあちゃんに遊んでもらったという経験が全く無い。
母方の祖父は、武家出身だったらしく、上杉謙信だとか直江兼続達武将のお墓と同じ敷地の禅寺にお墓がある。
母方の祖母が亡くなって、お葬式に行ったのと、私の結婚が決まった時に私の父と母と私の3人でお墓参りに行った時の2回ぐらいしか米沢に行けていないのだが、そう言えば旦那にその話をすると、旦那は私の母に、「山形にお墓参りに行こうよ!俺らがホテルとか新幹線とか準備するからさぁ」と言っていた。
この旦那の思惑は、【嫁の実家の方のお墓参りに行きつつ、米沢牛が食べてみたい】というものだと私はすぐに分かったが、母は、体調がイマイチだし、長時間新幹線に乗るのが大変だし、行くからには親戚のところへ何ヶ所も行かなければいけないし、孫(私の娘)を連れて行くと、孫も自分(母)も疲れてしまいそうだから…と断っていた。
ところがそれから半年も経たないうちに旦那が死んでしまってお墓参りも米沢牛も叶わなくなってしまった。
そうして約2年が経ち、先日母のお姉さんがお中元に米沢牛を贈ってくれた。
母のお姉さんは母より13歳も歳上なので、車椅子生活だそうだが、母のところへ直接会いに来てくれる事を希望に頑張っているそうだ。毎年お中元にさくらんぼを贈ってくれていたが、私がバラ科のさくらんぼにアレルギーがある事でお中元は要らないよと母が言うと、私達みんなが食べられるものにしようと考え、米沢牛を贈ってくれたそうなのだ。
母から米沢牛を見せてもらった時、
「これ、きっとおばちゃんのところに飛んで行って○○(旦那)が選んだやつだ。」と私が言うと、母が
「実はね…今だから言うけど、これが届く前に玄関から影がスーッとあんたと○○(娘)が居た部屋に入って行くのが見えたんだよね…」
母はちょっとだけ霊感があり、視えるらしいのだが、自分(母)の父親や母親だと感じる影みたいなものが、自分(母)を心配して廊下を何度も通り過ぎていくような事は今まで何度もあり、そういう時は決まって私の兄が何か問題を持ちかけてくる場合なのだそうだ。
ところが、米沢牛の時は、影はまっすぐ私達が居る部屋に入って行ったそうだ。
この時私はどうしていたかというと、娘が絵を描いている横で、頭痛がして横になっていた。午前中暑いのに揚げ物なんかしちゃったからかな…ううう。なんて思っていた。
旦那が居たのか。どおりで頭が痛くなるわけだ。くも膜下出血、きっとすごく痛かったよね。私に痛かった事と、米沢牛食べたかった事を伝えたかったんだね。
1枚づつフィルムに包まれた高級そうなお肉を軽く焼いて、一緒に付いていたタレをかけてくれて、旦那の写真の前に一等先にあげると、
「あー、美味いー!! ビールないの?ビール」
と言っている気がした。隣で娘が喜んでパクパク食べていた。
不思議と頭痛も治まってきて、いや、旦那よ、どんだけ米沢牛食べたかったんだ…と思った。
生きているうちに、食べたい物は食べて、行きたいところへ行って、会いたい人には会いに行っておこう。
死んでから後悔しないように!と思った話。
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