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路地裏のちいさな焼き菓子屋

大通りから気にかけていないと見えないような小道を進んでいくと、長屋の1番奥にくすみブルーの扉の小さなお店が見えてくる。

それが私が営むちいさな焼き菓子屋。
この夏で5年になる。

次の繁忙期が終わる頃このお店を畳もうと考え始めたのは、ホワイトデーが過ぎたとき、ふと余裕が無い自分に気づいた。

毎週のように通知が来る原材料高騰、不況も相まってお客さんの単価は減ってきていて、なんとか売り切ることばかり考えている日々に嫌気も刺してきていた。

ある日お客さんが、電話で在庫確認をしてきてたまたまそれが無かったとき、じゃあ今日は行かないと言われた。
いつもならそういう事は気にならないけど、この日は違った。

他のお菓子に価値がないと感じられているような気がして、引っかかってしまった。

ここで縋るような態度を取るということは、皆に合わせたお菓子作りをしないといけなくなるんだと思うと、私である理由が無いと感じた。
"私である事"は、個人的にとても大切にしてきたつもりだったので、少しぼんやりしてしまった。

やめるとなったら早く進めたいタイプなので、さっそくスタッフにも仕事を探してねと伝え、常連さんに半年かけて少しずつ打ち明けていこうと、決めた。

数人に言った所までは良かったのだけど、
それ以降は泣いてしまう方が現れて、もう言えない。となってしまった。

皆それぞれ、何かを抱えている人が多く訪れていると感じる時がある。

そういう見えないものに、なるべく寄り添いたいと思ってきたからかもしれない。

いつ閉めるとかは一旦置いておいて、このちいさな焼き菓子屋での日常を忘れたくなくて、少しずつ書き記しておこうと思う。

お店の始まりの話はたくさんしてきたけど、日々の営みの話はなかなかする事がなくて、ずっと心の中にしまってある。でもしまってあるだけだと、忘れていってしまうから。

ちいさな焼き菓子屋での日々のちいさな出来事。

宜しければ、読んでみてください。

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