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このわずらわしい世界 #未来のためにできること

3年前、私はメタバースという言葉を初めて聞いた。
人が作り出した仮想世界。
VRヘッドセットでメタバースへテレポート。

私は、ぞぞぞと鳥肌が立つのを感じた。
怖かったのだ。

環境破壊が進み、この世界で生きることが困難になる時がもし来たら。
人間はリアルの世界で活動することをやめ、メタバースの世界に没入するだろうか。
私はアニメキャラクターのようなメタバースアバターを思い浮かべた。
そうしたら、私の膝に座っている小さな娘を、今と変わらず抱きしめることはできるのだろうか。
柔らかい髪のにおい、むちむちな肌の感触、私が何よりも愛しているこの繊細な甘い感覚を、味わえなくなる…?

それは私にとってとても受け入れ難いことだった。


でも。
もっともっとテクノロジーが進み、現実世界と全く変わらない感覚を再現できるようになったら?
リアルと同じ感触で娘を抱きしめられるのなら、私はメタバースへ入るだろうか。

それが、やっぱり嫌なのだ。

この気持ちは何だろう。
現実の世界と、それとほぼ変わらない仮想世界。
その違いは何なんだ。

娘のおむつを替えている時ふと気づいた。
2つの世界の違い。

それは、きっと、「わずらわしさ」だ。


私の可愛い娘はもちろん可愛いだけではない。
臭い臭いうんちをするし、それは時におむつから漏れ大惨事にもなる。
ぷるぷるの肌は私が毎日せっせとクリームを塗り、小児科の軟膏を重ね、やっと成り立っている。
風邪をひけば鼻水をだらだら流し、夜中に何度も起きて泣く。暴れる娘を押さえ、何度も鼻吸い器で吸ってやる。

そう、とんでもなく面倒くさいのだ。

メタバースはこんなところは再現しないだろう。むしろ、それがないことを売りにするかもしれない。
私はいつからか、この世界のこんなわずらわしい側面を、失うのを怖れるほど愛していたのか。

雨が靴に染みぐちょぐちょ歩く感覚。
ティッシュでつかみ外に逃がす小さな蜘蛛。
放られた夫のくつした。

それらが急に愛しく思えた。

ここで生きていきたい。
これからもずっと。


自分的メタバースショックから時は経ち、私はもう1人娘が増えた。
今の時代の子ども達は、将来このわずらわしい世界を手放し、仮想世界を選ぶだろうか。
どうしたら一緒に、この世界を愛していけるだろう。
この世界の愛おしさを、私は、この子達にどう伝えようか。
そんなことを考えながら、私にしがみついて眠る2人の娘を抱きしめた。


今夜も寝返りが打てなくてつらい。



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