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ねえ【詩】

ねえ

あなたはいつもナンバーワンにこだわって
何度も負けては部屋にこもって
声をころして泣いているよね

私はあなたが1番だろうが2番だろうが
じつは
どうだってよくて
あなたの身体にあたたかい血がかよい
くやしくてくやしくて
涙になる

(生きてる)

それだけでじゅうぶんなの

ねえ
あなたは覚えていないと思うけれど
自分の足で立ち
歩けるようになった頃
足の裏につたう地面の感触が楽しくて
あの
ちいさなちいさな白い靴で
疲れて眠ってしまうまで
何度も芝生を駆けまわった

あのときのきもちで、

おどったらいいんじゃない?


ねえ

あなたはオンリーワンになりたくて
この世に二つとない何かを
いつも追い求めているけれど

私はあなたが誰かに似ているかどうかなんて
じつは
どうだってよくて
というか
もうすでに私に形が似ちゃってるその唇で
歌う声

(生きてる)

高音にかすれて混じる
きっと私だけが聴き取れる
幼い日のあなたの声
それだけでじゅうぶんなの

ねえ
あなたは覚えていないと思うけれど
キッチンに立つ私にまとわりついて
幼稚園で習ったかいじゅうの歌を
何度も聞かせてくれたよね

あのときのきもちで、

うたったらいいんじゃない?


ねえ
あなたは覚えていないと思うけれど
夜はいつも
私に抱きついていないと不安で眠れなかったよね
枕にされる腕が痛くて
早く一人で眠ってほしいと思ってた
なのに
今もしひとつだけ願いが叶うなら
1日だけでいいあの日の夜に戻って
小さなあなたを抱きしめて眠りたい


過ぎ去って分かることもあるの

あなたもだいじょうぶ


あの頃眠る時いつも
あなたの柔らかい髪が
あごに触れて痒かったな
いつまでもあの星のようにひかってる
私の記憶
そして
いつか最後の眠りにつくとき
何て幸福に生きたのだろうと
少しずつ消えていく心を
あたたかく照らしてくれる


きおく


きおく




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