【初心者向け短編講座】5赤星講評②プロが評価する描写とは
再び描写についてです。
前々回に、俗に言う"いわゆる小説らしい描写"をすると上滑りをして、何言っているのかわからない描写になるという、赤星先生の指摘をご紹介しました。では、良い描写とはどんな描写なのでしょうか。
いくつか褒めていただいたところを列挙しますが、初心者の方はほとんど(゚0゚)こんなのでいいのかいな。と思うのではないでしょうか^^;
引用太字が赤星先生の講評文です
三人で道路に小一時間ほど座り込んでいた。奇異な目で通り過ぎる人が見ていた。まるで、美しい風景が映画のフィルムを回すように目の前を通り過ぎていった。
別に難しい言葉など一切使わずに、主人公の心情と情景を描写している。
あえて言うなら「美しい」を違った表現にしたほうがよかった。
デジカメじゃない古い骨董品のカメラで写真を撮っていて、目立っていた。
こういう描写もいい。主人公の父親の性格が行動によって表れている。
でも、舞台の贋物の崇高な時空間の中で、私達家族は現実以上のものを味わったのだ。
過ぎていくその風景の中に、またあたらしい家族の時間が生まれていく。
この作者のすごいところは、難しい単語を一切使わないで、こういう表現がさらりとできるところだと思う。
ね(^-^)。簡単でしょ、描写って。
普通に書いているだけですよ、ほんと普通に書いただけ。誰にでも書けるこういう描写が実は評価されるのです。もちろん若干の工夫はあります。
最初の道路脇の描写は、それまでの演技していた緊張感が一気に解け、幸福な脱力感が訪れたことを描写しています。場所はあえてその直前に、田舎の雑草が生い茂ったアスファルトにしてあります。これがおしゃれなカフェとかだとだめですね。親子三人で座り込む。そら、奇異な目で見られますよね。でも、人に見られてもへっちゃら。こっちに視線を向ける人間たちなど、まるで風景のようだ。ここに、深まった家族の絆を描写しました。
時々小さい子供が、お母さんに怒られているじゃないですか。「そんなところにしゃがみ込むんじゃないの」って。あれを、親も参加して三人でやってるわけですね。世間からどう思われようがいいんだ。お父さんとお母さんは、不器用なだけで、臆病ではなかった。作中みこだけでなく、作者の私は、お父さんとお母さんもまた、小説の最後に救いたかったのです。
デジカメじゃない古い骨董品のカメラで写真を撮っていて、目立っていた。
ここで、みなさん悩むはずの人物描写についてちょっと詳しく書いてみますね。
私の今回のこの小説の特徴は。実は人物の外見に関する描写が一切ないことです。今回の小説には不要だと思いました。もう少し深いところで人物描写をしないと、それぞれの行動の意味が分からない。表面的に、お母さんはどんな服を着ているとか、みこはかわいいのかとか、お父さんはどんな顔で笑うのか、一切いらないと判断。
でも行動から、それを推測してもらっています。
主人公みこは、芯のあるしっかりした顔立ちで、どことなくふとした拍子にあどけなさのでるような愛らしい外見である。これを印象づけたかったです。
お母さんは特におしゃれというわけではないけど、そして若い頃の容色は多少衰えたかもしれないけど、身だしなみはきちっとしていて、生活を楽しむことができる魅力的な人。
お父さんは実直だけど、自然な笑顔で笑う人で、声高に自己主張はしないけど譲れないものをきちんと守って人生を送ってきた人。会社の重役タイプの外見ではないけど、つつましやかに、人から信頼される雰囲気を醸し出している人。
このあたりを狙いました。お父さんのそれが引き立つ場所はどこか。卒業式で目立たせるのが一番だろうという目論見ですね。
でも、舞台の贋物の崇高な時空間の中で、私達家族は現実以上のものを味わったのだ。
過ぎていくその風景の中に、またあたらしい家族の時間が生まれていく。
劇作ですとシェイクスピアの『お気に召すまま』にあるこんなセリフですね。
『この世は一つの舞台だ。
すべての男も女も役者にすぎない。
それぞれ舞台に登場しては、消えていく。
人はその時々にいろいろな役を演じるのだ』
華やかな英国社交界を経験してきたジェイクイズ公爵のセリフなので、これでいいんですが、こういう"いわゆる文学的な表現"は、みこちゃんのこの小説ではやってはまずいです。
なんだか教訓話になっちゃいますよね。
新しい風景が家族の前に立ち上がった。こんな風に控えめに描写しないとアウト(><)です。
単語や表現に凝ることは、このようにまったく必要なく、むしろ、ヘンテコになります。ただし、なんのためにこの描写はするのか、それは意識しましょう。
描写は描写のためにあらず。その代わりにある必然性がないと失敗します。そこだけ注意すれば、さらさら書いていけばいいだけですよ!
頑張ってください(^▽^)/
今回も ゆうのうえんたん のイラスト。モデルみこちゃん。なんかめっちゃ仕事できそう(゚0゚)。いつも驚いているばかりなので、ちょっとだけ素人なりに想像してみる(^~^)。これって、全体もとても美人に描いていただいているわけですが、仕事できそうな知的な部分は、右手にあるのではないかと思いました。中指薬指小指がきちんとくっついていて、人差し指が鋭角的にiPadの一つの部分を正確にタッチしようとしている。それを補足するように、外側に反り返った親指が、指先に緊張感を与えている。
この親指が内側を向くと、まるで違った印象になる。このみこザウルスがiPadにタッチするときには、おそらく親指は内側に丸められているのではないか……。中指薬指小指は軽く開いているのではないか。そして人差し指も鋭角的ではなく、親指と円を構成するように丸くなるような気がする……。ためらいながらタッチするゆうのうえんたんのイラストからそんな想像するのもまた楽しいです(^~^)。