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【長編小説】真夏の死角55 東北帝国の六芒星
「しかしそのあたりの知識がなくて大変申し訳無いのですが、基本的なところからお聞きしてよろしいでしょうか」
「私で分かることでしたら何でも」
景子はそう言うと自分でも湯呑に口をつけた。手元で気がつかなかったが二つの有田焼と思しき湯呑にも、六芒星のマークが金色で象られていた。
「先程の籠神社のことですが、そこの神主さんからご子息の澤田明宏君に六芒星を象ったボールが渡されたということですね」
「ええ。ボールというよりはもともとは貴族の遊びの蹴鞠の鞠のようなもののようです」
「そして神社の名前も籠……。しかし伊勢神宮よりもある意味で格式のあるとさえいえる籠神社がイスラエル国旗と同じマークを特別に重んじているというのも何だか……」
景子はそのような感想は想定内であったらしく、さっきの手元のアルバムの更に後ろの方をめくった。
「これが籠神社でその時に買った絵馬です」
「これは……」
![](https://assets.st-note.com/img/1672532476314-BlKXzXJxn9.png)
「ダビデの星に、月と太陽まで……」
「そうですね、ちょっと日本のデザインとは異質です」
「伊勢神宮付近の石灯籠にもこういうのがたくさんあります」
景子はさらにアルバムをめくった。
![](https://assets.st-note.com/img/1672532846832-eH1TwjAakw.png)
「菊花紋章とダビデの星……」
「平城京、平安京、飛鳥京が五芒星の中心軸上に、周りのいわゆるパワースポットに守護されて、正確にまるで測ったかのように配置されています。日本の都はダビデの星をなぞらえているという説もありますね」
![](https://assets.st-note.com/img/1672533748185-kdwDluo9XR.jpg?width=1200)
「しかし、本当にこれは計画的だったのでしょうか……」
「平安中期にまさに京都都市の守護神的存在であった安倍晴明の『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』には、京都という都市を守護するための理論が体系的に書かれているようですが、安倍晴明が彼の陰陽道の根幹としていたのは実は六芒星でした」
景子はそう言って今度は「晴明神社」の写真を田久保に示した。
![](https://assets.st-note.com/img/1672534304583-zVD1sAakhC.jpg?width=1200)
「なるほど、京都という街が六芒星と関係がありそうだというところまでは分かりました。でも、どうしてそこに仙台国際グローバル大学が出てくるのでしょうか」
景子はやっとそこに田久保の関心が向いたことに満足したようにうなずいた。
「実は東北地方にも、さっきの京都の六芒星と同じようなところがあるんです」
「東北地方に……」
「ええ、伊達政宗が仙台藩を設計する時にダビデの星をその根幹に据えていたという説があります」
「伊達政宗の仙台藩が……!?」
![](https://assets.st-note.com/img/1672534902762-DFY0B4JuJX.jpg?width=1200)
「こんなことが……」
「そして、現在この中心部分には大学があります」
「その大学が……」
「はい。仙台国際グローバル大学が京都の平城京の位置にあります」
「しかし、そんなことが可能なのだろうか」
「この六芒星の内側は国家所有の部分以外のほとんどは、小谷家の土地です」
「なんですって!?」
「小谷家の土地。いえ、正確には東北帝国の土地ですね」
景子は「東北帝国」という名前を田久保がすでに知っていることを前提としたかのような断定的な口調でそう言った。