十代の間違い
校舎を出ると雨が降っていた。
激しい雨だった。
傘がない。
教室に戻ろうか。
後ろから背中を押された。
屋根の外でいっきに体が濡れた。
誰
振り返ると、
傘をさしてくれた。
野球部の先輩だった。
「そんないじわるしないでください」
「たまにはいいじゃないか」
マネージャーの私にエースピッチャーの先輩は微笑んだ。
「いつも洗濯してくれてありがとうな」
「もうそういうことやっている高校少ないですけどね」
「うちはまだやってますね」
「だからちょっと汚してみたかったんだよ」
「なんですかそれは」
私は笑った。
…マネージャーは決して汚れない。
そして汚れたユニフォームを洗ってくれる。
「汚してみたかったんだ」
「……」
傘をさされた体から、雨に濡れて一日分の学校の匂いが立ち上る。
傘をさされているのでその匂いが傘から跳ね返る。
この匂いを先輩も感じているのだろうか。
そう思うと、
顔が上気した。
「どうして赤くなっているの」
先輩は前を見ながらつぶやいた。
真っ白な大きな傘。
背の高い先輩がさす傘は自分のはるか頭の上にあった。
見上げた。
雨が次々と傘に染みを付けた。
雨垂れが白い傘の色を濃くしていく。
すっかり白い傘は雨に濡れた。
何をされたわけでもない。
でも自分が濡れていくのが分かった。
たまらずに先輩の手を握った。
古い傘だった。
恥ずかしかった。
ところどころに黒い染みがある。
わずかに穴もあいている。
その穴から雨が差し込み、先輩の頬に垂れた。
舌で舐めた。
背中が反り返るほど強く抱きしめられた。
先輩の雨の匂いとともにわたしの唇は完全に塞がれた。
傘が落ちた。
雨が降り注ぐ。
強く引き離した。
「人が見ています」
そういって引き離して、わたしは傘を拾い上げた
何事もなかったように歩き出した。
もうすぐ駅だ。
先輩とは反対方向――
袖を引っ張った。
我慢ができなかった。
公園で今度は自分からキスをした。
先輩の頬をなでた。
頷いた。
ベンチに倒されて、そしていきなり挿入してくれた。
初めてだった。
痛さに涙を流しながら、右手で触ってもらった乳房の快楽にそれを紛らわせた――。
雨が打つ。
終わったあとに、ちょうど雨がやんだ。
星が見えた。
初体験がこういうのでもいいかな。
星に聞いてみた。
歓喜と変わった涙の中で星がすこし大きくなったように応えてくれた。
「明日からもよろしくな」
「こちらこそ」
そう言って駅で別れた。