小姫の故郷を訪ねて①~私の中の中国人
今回の小説では小姫という中国生まれの残留孤児の女性を登場させました。必ずしも小説の中に直接反映させているわけではないのですが、イメージを固めるために中国関連の書籍をけっこう読みました。
その中で印象に残っている本をこのあと何回かに分けてご紹介します。
私にとっての中国人は底抜けに良い人である
まず、私にとって中国の方というのはどのような人なのかです。
今、不幸なことに中国と日本は政府間でも民間レベルでもあまり仲良くないようです。でも、主にネトウヨの人が嫌うような中国人と、私の中国人のイメージはまったく違っています。
震度3の地震に律儀に安否メールをくれる中国人
私の祖父はもともとエンジニアでしたが、退職する前は第一線のエンジニアではなく、会社の長期的な戦略を実行する立場にありました。
そのとき祖父の在籍していた会社が重視していたのが中国国費留学生の受け入れです。優秀な金の卵を中国政府が日本企業に派遣して、現場の日本の先端技術を学ばせるということですね。
祖父の勤務していた会社はかなりの中国人留学生を受け入れたそうです。祖父はそのプロジェクトの責任者を長い間担当していました。
その時祖父に世話になった中国人の方は、今でも日本で地震があったなどの天災系ニュースがあると、必ず「〇〇先生は大丈夫ですか」(〇〇は私の名字)と安否を気遣うメールをしてくれます。
中国に帰ってからもう50年ほど経つんですよ。これはかなり義理堅いというか、日本人はここまで果たしてできるでしょうか。しかも震度8とかの大地震じゃなくて、震度3とかでもやってくるのです。
祖父は「おい、みこ。そっち地震あったか」とか、私に地震の有無を聞いてきます(爆)。
中国版ツイッター微博でもチェックしてるんでしょうか。私は「こっちは揺れてないよ」というと「そうだよな、微かに揺れたような気もするが…」という感じです。ははは。中国に住んでいる人の方が日本の地震に詳しい(笑)。
とてもいい人です。
自分の汗を拭く前に あわてて手袋脱ぎ捨てて握手してくれる中国人
もう一つ私の中国人のイメージを作った原型があります。
私の叔父は鉄道マニアです。子供がいない叔父は、私のことを今でも実の子供のようにかわいがってくれてまして、小さい頃から鉄道旅行でいろんなところに連れて行ってもらいました。
その中叔父との旅行の中で、中国から期間限定で蒸気機関車を借りてきて(大型船で運んだんでしょうか…)、短い距離を走らせるというイベントに参加したことがありました。
その時私は生まれてはじめて蒸気機関車というものに乗りました。汽笛の音が半端じゃなくて、いざ客車に乗り込もうとしたら天を劈くような、ものすごい音がしました。私はそのままホームにへたり込んで大声で泣いた覚えがあります。
短い距離でしたが、私は窓から風景を見ながらも、しくしく泣いていました。気を利かせた叔父が終点まで行った時に、先頭の蒸気機関車まで手を引いてくれて、中国人の運転手さんと握手ができるように取り計らってくれました。
多分叔父はそのイベントを主催した鉄道友の会といったかな、なんとか会の人なのでそういう便宜が図れたのかもしれません。
私の顔を見ると中国人の方はもう、これ以上ないような笑顔をみせてくれました。まるで遠く離れた外国から、久々に中国に里帰りした私を出迎えてくれた親戚のおじさんみたいな笑顔をしてくれました。
そして、「この子が握手をしたがっている」と叔父が伝えると、さらにニッコリして、手を出そうとしました。
その時、自分が炭で真っ黒になった黒炭の粉だらけの手袋をしていることに気がついたんです。そして、運転手のおじさんは「こりゃやばい」とあわてた仕草で両手の手袋を外して、床にポンと置きました。
さらに自分の膝小僧で、汚れをグイグイときれいにして「ヨシ」と頷きました。そして私の眼を見て、わたしがおずおずと差し出したてを握ってくれました。
手は汗でびっしょりでした。かまどのようなところに炭を補充する作業も運転手さんのお仕事だったみたいでした。しっかり握ってくれた手だけではなく、にこにこ笑ってくれている運転手のおじさんの額にも大粒の汗が滝のように流れ続けてていました。
果たして日本人は、自分の汗を拭く前に「あ、やべえ」と自分がしている手袋をあわてて床に投げ捨てて、小さな女の子と笑顔で握手してくれるでしょうか。
とてもいい人です。
この原体験を私は本の中に確認したかった
今回、小説を書くために中国関係の本をいろいろ読みましたが、この私の原型の中国人の姿がなかなか見つかりませんでした。
世に言われる、中国本とか韓国本(いわゆる嫌中、嫌韓を煽ってる本ですね)はけっこうとんでもないものが多いことは当然知っていましたが、一見まともに見える本でも、私の原体験を確認できるようなものはほとんどありませんでした。
その中で見つけたのがこの本でした。
著者は題名にあるように、日本に帰化したがっているくらいですから当然親日です。でも、親日の中国人が祖国の中国を悪く言って日本を礼賛しているそこらに転がっている本とはまったく違いました。
著者は、日中双方に等分の目配りをしながら、日中の今のコミュにゲーションギャップを憂いている非常に聡明で、知的な方だと思います。
私はかなり右寄りの発言で知られる高須克弥氏も好きですが、それにしてもこの本の表紙。この表紙とタイトルでかなり損してますよ、この本(爆)。
私も早いうちにこの本は手に入れていたのですが、タイトルと表紙の先入観のために読むのを後回しにしていましたが、凡百の嫌中、日本礼賛の本より遥かにレベルが高かったです。
例えば、中国人の分析では、こんなことが書いてあり、目からウロコでした。
中国人は7つに分類すると付き合う時の目安になる
【中国人の分類】
1毛沢東思想の盲信者
天安門事件以降の愛国教育で毛沢東を英雄視する人
2五毛党とその周辺
5毛(約8円)お金をもらって嫌日のネット書き込みなどをする人など
3共産党員
一部に熱狂的な中国体制支持者もいるが大半は業務命令で大規模デモなどに参加する人たち
4ノンポリ
中国人の大部分で特に嫌日でもなく、普通に日本アニメや日本製品はすごいと思っている
5合理主義者
著者の孫向文氏によれば、堀江貴文さんみたいな人だそうです(笑)
6民主活動家
いわゆる西側の自由民主主義を中国に浸透させようと、投獄覚悟で頑張っている人
7日本、アメリカ礼賛者
日本人以上に、あるいはアメリカ人以上に日本、米が好きな人達。日本の戦前の軍国主義やアメリカの世界覇権主義すらも崇拝しているそうです
この本から学んだこと
言われてみれば当たり前なのですが、中国人にも色々いるということです。あまりにも日本での嫌日中国人とネトウヨのやり取りが、クローズアップされるので私たちは知らないうちに、デフォルメされた中国人像を持ちがちです。でもノンポリが多いのは考えてみれば当たり前かなと思います。
日本人だって、ネットではネトウヨの声が大きいですが、あれが日本人の代表選手と思われるとちょっと困る。
ネットで威勢のいいこと言っている人が2の五毛党だとすれば、1ツイート8円で中国共産党の政治広報やっているだけなので、ネトウヨが頑張って反論する価値もないかなと思えました。
また、尖閣諸島云々などの問題は、1毛沢東崇拝者と3共産党員という少数派がメディアの力を使って大きな声出しているので、やっていることは五毛党と一緒かもしれません。
そうすると、私たちは4、5、6、7の人と付き合っていれば良いわけで、そうすれば、私の原型の中国人イメージも修正しなくてもいいのだと分かりました。
1、3は安倍内閣と政府に主に担当してもらい、2はネトウヨに担当してもらえばいいのかなと思うと、視界がスッキリしました。
祖父に震度3で安否メールを下さる中国人は共産党員だと聞いていますので、すばり3の共産党員です。現在は、共産党の中でもかなり偉い人になっているそうです。おそらく共産党員であり、中でも党内のエリートでないと当時国費留学生には選抜してもらえなかったかも知れないですね。
私も会ったことありますけど政治的な議論をふっかけることなどもちろんありませんし、尖閣のことを世間話で持ち出せそうな雰囲気の柔和な人です。
蒸気機関車の運転手さんは4のノンポリだと思います。日本語でノンポリというと政治信条がなくて選挙にも行かないというような悪いイメージがありますけど、ふつうに「いい人」(これが実はすごく尊いことだと思えます)という分類ですね。
おそらく小姫もその家族も4のノンポリで、この後しばらく小説の中で存在感を示す蛇頭は5の合理主義者だと考えればいいのかもしれません。
とりあえず、私はわたしの好きな中国人のイメージを再確認できた
もちろん、これで日中問題が解決するわけでもありません。それとこれとはまた別で、政治も経済も民間レベルでも、いろんなコンフリクトは解決していかないといけないことは間違いないです。
しかし、もやもやした先入観だらけになっている対中国人に対する視界をクリアにすることが、今回小姫を魅力的に書くためにはどうしても必要でした。
そのため、いろんな本をあさりましたが、孫向文氏のこの本に出会えてよかったです。
この本は1/3がマンガになっているので、楽しい本です。中国問題に関心のある方にはぜひおすすめしたい本でした。
改めて思いましたが、世の中の嫌中、嫌韓、日本礼賛の本は内容も表現もクリシェ(常套句、決まり文句)だらけです。そんなのばかり手にしていると、思考回路までクリシェ化していくような気がしました。要するにそういう本を書いている人は7日本、アメリカ礼賛者というわけです。
この本は実によくできている。
もし、この孫向文さんの本に重版がかかるようなことがあったら、余計なお世話ですが、とりあえずタイトルと表紙をバージョンアップした方がいいのではないかな、と思いました。
解説記事、この回終わり。
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