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【長編小説】真夏の死角 48ユダヤを凌駕する金融財閥の誕生

 君はもしかすると、僕が頭がおかしくなったと思っているかもしれないね。それはそうだろう。悠理という女子高生売春組織のトップが実は僕の妹だったというのは、ありえない話ではないだろう。

 でも、いきなり僕が実は昭和初期生まれの人間であったとしたり、そこから話が太平洋戦争終結前の世界に戻ったりしたのだからね。

 これについてはもちろん、君を納得させることを話していくつもりだ。最後には君は、もし正気であるならばこの不可思議な話を事実として認めざるを得なくなるだろう。そうさ、その時世界の正気と狂気は逆転し、昼が夜となり夜は昼となる。善は悪となり悪もまた瞬く間に善となる。しかし、考えてみたら君の住んでいるテレビの世界もまたそうなのではないのか。

 虚構の世界が独り歩きし、その独り歩きした虚構の世界が現実を作り、その現実がまた虚構を作る。ありもしないものがあるものを作り、そのもともとなかったものが実在を作ることの連鎖こそがこの世界の成り立ちだということは、君は肌感覚としてテレビ局の中で数十年そう思って生きてきたはずだね。

 そして、君の永遠の恋人である神奈川県警の田久保秀明警部もまた、この世界の虚構と現実の中で苦しみながら、その苦しみが発生した君との大学生時代のあの地下室でのレイプ事件を思い出しながら毎日を生きているはずだ。

 ここに、君に一つ、この世界と今話をした東北の財閥との現実的な接点、揺るぎない接点について話をしよう。

 それは、君も名前を知っているM資金についてだ。

 M資金は連合国軍総司令部、GHQの経済科学局長だったマッカート少尉の頭文字から来ていることは知っているね。M資金は通常は高説明される。

 日本には実は莫大な裏金が存在しており、敗戦とともに使い道のなくなったその資金が日本の高度経済成長とともに莫大に膨れ上がり、行き場を失ったその資金が、日本の表の経済に時々亡霊さながらに現れる。

 君はM資金を荒唐無稽だと思っていただろう。

 それはそうだ。戦費についてはこの手紙でも前に書いたように、太平洋戦争時の日本は逆さに振っても余剰金などない状態だった。そんな中で15年にも及ぶ戦争を遂行していたんだ。文字通り、欲しがりません勝つまでは、というのは政府の財政そのものだったのは間違いない。

 しかし、戦後M資金は確実に存在する。

 戦後の財閥解体の時に各財閥にはGHQから莫大な補償金が実は支払われているが、それはすべてM資金で賄われたし、高度経済成長に入り1970年には全日空が3000億円の融資を受けている。1974年には東急グループが2兆3000億の融資を受けた契約書が実際にマスコミにすっぱ抜かれた。翌年にはTBSが200億円の融資を受けるはずだったがこれは、社長の申込書が事前にマスコミに漏洩して御破算になったがそれがなければ融資は実行されていた。

 平成になってからも失敗して表に出かかったものだけでも、平成5年に名古屋銀行元支店長事件があったし、翌6年には日産自動車の次期社長とされていた某副社長がM資金絡みで失踪する事件が起きている。平成9年には家電量販店大手グループ社長が闇帳簿で処理しようとして発覚して引責辞任している。これらは今書いた断片的な情報だけでも、君の会社のデータベースで検索せずともインターネットで検索すれば普通に出てくるだろう。

 それらはもちろん事実だ。

 ところが、M資金それ自体を世の中の人は架空の資金だと思っている。ところが、それは存在する。

 なぜそう断言できるのか。

 それは、M資金こそが戦前に僕が小谷家を率いて作り上げた偽札がその原資そのものだからだ。

 小谷家は戦後も代々このM資金の総元締めとして日本の政財界の一切を陰から操っていたんだ。今でも小谷三郎が代議士として我が国に絶大な影響力を行使しているのは、背後にM資金、つまり小谷威一郎が日本政府と結託して主導した贋金があるからなんだ。

 贋金……。

 そう、その当時は贋金だった。

 しかし、そこに1944年、東北大震災が起きたんだ。

 なぜ、関東大震災を上回る規模の被害をもたらした東北大震災が日本の歴史から消滅しているのか。

 その理由は東北大震災にとって、小谷家の所有していた敷地内にあった偽札製造工場が壊滅的な打撃を受け、そこで刷り上がって金庫に保管されていた当時の金で数兆円規模の資金が流出したからだ。

 いきなり天からヘリコプターで札束がばら撒かれたようなものだ。一部の人はもちろん気が付いたし、マスコミも嗅ぎつけてしまった。そこには、偽の日本円の他にもドイツマルクや米ドル、英ポンド、スイスフランなどのあらゆる国際的な信用のあるブランドの偽札が溢れかえっていた。

 それが露見すればその時点で世界恐慌だ。そしてまた日本の陰謀を今度こそ世界は許さないだろう。原発は間違いなく小谷家所有の土地、小谷財閥の存在する東北にヒロシマ、ナガサキの2発どころか100発以上の原子爆弾が打ち込まれていたに違いない。

 そこで、政府はこの震災そのものの事実を隠した。

 それと同時に、偽札をすべて焼却し、その代わりに日銀を巻き込んで本物の日本円を大量の増刷し、すでに使途の決まっていた偽札相当分をすべて本物の紙幣で買い取ることを条件に、引き続き小谷財閥にこのヤミ金融の管理を任せたのだ。

 ここに、表には絶対に出すことのできない本物の日本円が大量に小谷財閥の管理下に、政府とは別におかれることになったんだ。この時点で動かせる資金量は当時のユダヤ財閥に匹敵していた。

 小谷財閥は陸軍本隊および憲兵隊組織と連携しながらこの情報漏れを厳重に管理し、小谷財閥には小谷財閥専門部隊の憲兵隊が組織された。あたかもそれはヒトラーのSSやSAのような秘密警察のようなものだったんだ。

 今でも、この秘密警察組織の残党が日本中の国家公安委員会や警察庁管轄下の各都道府県警察の公安部、および中央の内閣秘密調査室、外務省外事情報局、公安調査庁などにいる。田久保秀明警部などの話に僕が詳しいのもそのためだ。

 また詳しく話をするが、大手ゼネコンの談合担当だった澤田明宏の父親が東北の私立大学の利権がらみで失踪したのもこのM資金絡みだ。それがめぐりめぐって、澤田明宏の殺人事件へとつながっていく。もちろん澤田明宏はこのからくりは全部知っていたよ。

 とにかく、ここに僕が言った、日本の敗戦の一年前に誕生した日本の敗戦処理がスタートした。小谷威一郎は日本の敗戦を予期し、必勝を盲目的に信じようとする軍部とは表面的には同調しながらも、戦後の日本を立て直すための計画をすでに、東北大震災の時に手にした本物の巨額の日本円を元手に緻密に考え始めていたんだ。

 その時の小谷威一郎が思い描いた戦後処理が、今の日本を支配している政財界のすべてだ。

 今の日本は、すべて小谷威一郎が青写真を描いたそっくりそのままに、今日でも運営されている。

 どうだい。

 虚構と現実がひとつになっただろう。

 僕はその接点を生きた人間だったんだよ。

 澤田明宏もまた、その接点に関わってしまった人間だった。

 田久保秀明が気がつかなかった真夏の死角は、戦前の東北から戦後日本社会に投げられた、見えない魔球だったんだ。


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