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第1章 光科学技術の歴史と限界 第1.1節

1.1光は科学技術の道具?それとも対象? [1]

これまでの光科学を振り返ると図1.1に示すように二つの系統があることがわかります。一つは「光を道具として使う」科学です。これは光に対する特性の優れた材料、デパイス、装置を研究する科学とも言えます。 この方向に沿いレーザー光、ホログラフィ、メモリ、などが発明されてきました。また、光源の短波長化、短パ ルス化、高パワー化などの極限を目指した技術も開発されました。しかし最近ではそれらの技術には限界が見え始めています。

 もう一つは「光を研究する」科学です。これは光に関する新しい既念と理論を作り出し、それを使う科学です。これにはニュートン、アインシュタインなどが大きな貢献をしたことがよく知られています。その代表例として、レーザー発明の前後に進展した「光の量子論」の研究があります。この研究によってレーザー光がもたらした現象が説明され、また、量子論の検証も行われました。この科学により、光を古典論的に扱うか量子論的に扱うかという、それまでにはなかった新しい概念を生み出し、それに伴い理論体系が創出されたのです。

 本稿で取り上けるドレスト光子[2]は、後者の「光を研究する」という系統の科学の成果の一つです。約40ナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル、10億分の1メートル)以下という微小な寸法の空間に発生する光を追求した結果、ドレスト光子という新しい概念が生まれました。

 ドレスト光子の研究では光の量子論を道具として使いますが、それより大事なのは、このようなナノ寸法の光の性質を明らかにするには新しい概念と新しい理論の創造が必須であるということです。それらの創造のために研究が1980年代以降進められ、このような独創的科学の進展と足並みをそろえて新しい応用技術が開発され、今や包括的な革新技術として育 っています。

脚注
[1] 本稿は私が著者となり自費出版した「光科学技術革命 ドレスト光子はやわかり」―異次元の光技術入門― (丸善プラネット、2014年3月)の第1.1節の一部の文章と図を適宜アップデートしたものです。
[2] 英語ではdressed photonと書きます。「光子」は「こうし」と読みます。しかし往々にして「みつこ」と読まれがちです。「みつこ」という人の名前を連想するからでしょう。無理もありませんが。

図1.1 光科学の分類

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