The Unbelievable Oliver and the Four Jokers
クラスメイトのバースデーパーティで、オリバーはマジックを披露することになった。でも、何度も練習しても失敗ばかり。しかもパーティは明日! わらをもすがる思いでマジックショップに行くと、渡されたのはボロボロのシルクハット。なかから出てきたのは、しゃべるウサギ! ベニーと名乗るウサギと、友だちのふたご、ビアとティーニーともに、オリバーはバースデーパーティに乗りこむ。パーティではプレゼントのロボットネコが消え、オリバーたち3人に疑惑の目が向けられる。3人は犯人を見つけ、無実を証明することができるのか?!
作者:Pseudonymous Bosch(スードニムス・ボス)
出版社:Dial Books(imprint of Penguin Random House)
(ニューヨーク/アメリカ)
出版年:2019年
ページ数:184ページ(イラスト多い)
シリーズ:既刊2巻(おそらく完結)
作者について
ベストセラー「シークレット」シリーズ(未訳)の作家。本名ラファエル・サイモンとしても『Anti-Book』を発表。カリフォルニアでゲイのパートナーとふたりの娘とともに暮らしている。
おもな登場人物
● オリバー:8歳の男の子。マジック好きだけど下手。
● ビアトリス(ビア)、マルティーナ(ティーニー):ふたご。2人のお父さんと暮らしている。
● マドックス:学校一のお金持ちで、いばっている。9歳のバースデーパーティを盛大に開く。
● メンフィス、ジョー、ジェイデン:マドックスのとりまき。
● ローズ:ちょっと変わった女の子。いつもネコ耳をつけている。
● スペンサー:オリバーのいとこ。〈グレート・ズーキーニのマジックショップ〉で働いている。
● グレート・ズーキーニ:マジシャン。ハトのパルマを連れている。
● ベニー:シルクハットから出てきたウサギ。
あらすじ
※結末まで書いてあります!
オリバーは最近マジックにハマっているが、どうもうまくいかず、失敗ばかり。友だちのふたご、ビアとティーニーを相手にトランプの数字当てマジックを練習するが当たる気配はなく、飽きたビアとティーニーはマドックスの9歳のバースデーパーティの話をはじめた。3年生で招待されていないのはオリバーだけだ。ところが翌日、ビアとティーニーはパーティの出し物としてオリバーのマジックショーを開く約束をとりつけてきた。ギャラも出るという。でもパーティはあしただ!
オリバーは、あわてていとこのスペンサーが働く〈グレート・ズーキーニのマジックショップ〉に駆けこんだ。でも今はマジックのレッスンはやっていないらしい。スペンサーはオリバーにぼろぼろのシルクハットをくれた。マジシャンのズーキーニとハトが煙とともに現れたが、バースデーパーティのギャラのことだけ聞くと消えてしまった。途方に暮れるオリバーのシルクハットから、なんとウサギが出てきた。ウサギはサングラスをかけ、ことばをしゃべった。名前はベニー。オリバーからパーティのことを聞くと、ギャラを山分けする条件でオリバーにマジックを教えることにする。ステージネームも必要だ。ベニーはオリバーを「アンビリーバブル・オリバー」と名づけた。
パーティ当日、オリバーはビアとティーニーの家の車でマドックスの家に向かった。ベニーはシルクハットのなかに隠れている。マドックスの家は豪邸で、門には巨大バルーンが浮かび、プールもあった。ピエロも来ていたが、マドックスはこんなやつ追い返してくれ、と母親に訴え、ピエロは会場を間違えたかもと言ってそそくさと出ていった。
マドックスは、いつもつるんでいるメンフィス、ジョー、ジェイデンに囲まれてプレゼントを開いては、いちいちケチをつけていた。でもビアとティーニーが持ってきたロボットのネコRK-D2は気に入った。スマホのアプリで操作できるすぐれものだ。
オリバーのマジックショーが始まったが、シャレはぜんぜんウケないし、コインを消すマジックも失敗しかけた。しかもパーティの主役マドックスはRK-D2と遊ぶと言って部屋から出て行った。オリバーがシルクハットからベニーを出すと初めて拍手が起きたが、そのときマドックスが怒鳴りこんできた。キッチンのテーブルに置いてあったRK-D2が消えたという。だれかが盗んだ、とマドックスは大騒ぎし、犯人さがしが始まった。
大のネコ好きで、ネコ耳カチューシャ、ネコTシャツ、ネコリュックという姿のローズが真っ先に疑われたが、ロボットアレルギーだから違うと言った。疑いの目は、マジックで消したのではないかとオリバーに向けられた。ビアとティーニーも疑われ、3人はロボット探しに乗り出す。庭のキャンディ火山(スイーツの山とチョコレートファウンテン)が噴火する13分後がタイムリミットだ。ロボットが無事に見つかれば、マジックショーのリベンジをしていいことにもなった。ビアはRK-D2を連れ去った犯人を、ティーニーはRK-D2アプリがインストールされているスマホをさがし、オリバーとベニーはRK-D2が最後に目撃されたキッチンを調べることになった。
オリバーがキッチンにいくと、ジョーが大きなゴミ袋をかついで通りすぎた。ジョーは片づけなんかするタイプじゃない。これは怪しいと、オリバーは後を追って外のゴミ置き場に向かった。ジョーはゴミ置き場になにかを隠しているようだった。ネコの鳴き声も聞こえた気がしたが、出てきたのはオポッサムだった。コソコソしているのがバレたオリバーは、ジョーにゴミをぶっかけられる。いつのまにか、ベニーはいなくなっていた。
ビアはキャンディ火山のまわりで、みんなのおしゃべりに聞き耳をたてた。これといった情報は得られなかったが、火山からリコリスの赤いロープが遠くまで伸びているのに気づき、たどっていった。ロープの終点には工作テーブルがあり、メンフィスがなにかを作っている。のぞいてみると、テーブルの上にはパーティ会場の案内図とともに、RK-D2の説明書があった!
ティーニーはスマホ探し担当だが、そもそもスマホを持っている子はほとんどいない。プールの監視員、マドックスのママ、そしてマドックスのスマホをのぞいてみたが、アプリは使われていなかった。城の形のトランポリンの前に並んでいる靴を調べると、ひとつにスマホが入っていた。RK-D2のアプリが立ち上がっている! ジェイデンの靴だった。
キャンディ火山のカウントダウンが、残り1分となった。オリバーとビアとティーニーは調査結果を報告しあった。容疑者の名前をいっせいに発表すると、ジョー、メンフィス、ジェイデンとばらばらだ。あぜんとする3人。しかも、ジョー、メンフィス、ジェイデンはみな、オリバーたちが目撃したことについて説明できる理由があったうえに、3人ともマジックショーの会場にいた、というアリバイがあった。そのとき、ローズに抱えられてベニーが帰ってきた。ベニーはオポッサムが大っ嫌いなのでゴミ置き場から逃げ、爬虫類コーナーでローズにつかまったのだった。
オリバーたちへの疑いは晴れず、親を呼ぶと言われたが、マジックショーだけはやらせてもらえることになった。演目はフォー・ジョーカーズ。トランプの山のいちばん上に乗せた4枚のジョーカー(本来はジャックでやるが、オリバーのトランプはジャックが4枚揃っていなかった)を、1枚ずつ山の任意の位置に移動させたあとカードを上からめくると、なぜか再び4枚が集まっている、というマジックだ。4人の銀行強盗にたとえて披露されることが多いが、オリバーはバースデーパーティでの盗難事件という設定でショーを始めた。トリック自体よりも、むしろ話術が重要なマジックだ。謎を解き明かしたベニーがシルクハットのなかから小声で言うとおりに、オリバーは話した。
1人目のジョーカーはプレゼントを盗み、ゴミ置き場に隠した。
2人目のジョーカーはブレインとして指示を出し、計画通りにいっているか目を光らせた。
3人目のジョーカーはアプリでロボットを操作した。
そして4人目のジョーカーは、そもそもの盗難計画を立て、無実の罪をマジシャンとその友だちに着せようとした。
マドックスはブーイングし、ジョーたちも気まずそうだった。オリバーとティーニーとビアがあらためてマドックスたち4人が犯人だと宣言すると、クラスメイトのみんなは拍手した。そしてお手伝いさんが運んできた巨大なバースデーケーキを食べ、パーティはお開きとなった。
オリバーたち3人とマドックスたち4人は残り、マドックスのママにあらためて説明した。マドックスは1回目のマジックショーを抜けたふりをしてRK-D2をゴミ箱に入れ、ジョーがゴミ置き場に運び、メンフィスの指示でジェイデンがアプリを操作してRK-D2をどこかに移動させたのだ。アプリでRK-D2を呼び戻し、証拠が揃うと、マドックスのママの怒りが爆発した。ところがマドックスたちは、ぜんぶピエロが考えたことだと言いだした。プールの監視員をしていたスペンサーがバイト代をもらいに入ってきて、あれは本物のピエロではなかったと言った。ピエロに扮したグレート・ズーキーニだったのだ! ズーキーニは、誕生日パーティの仕事をオリバーに取られたからと、邪魔しにきたのだ。そのとき、ズーキーニとハトが飛びこんできた。そしてRK-D2を盗んで逃げようとしたので、みんなで追いかけた。
オリバーとふたごは、たくさんのおみやげとRK-D2を持ち帰り、マジックの成功と謎の解決をお祝いした。
評
ひょんなことから、招かれてもいないバースデーパーティでマジックを披露することになったオリバー。しかもプレゼントのロボットネコが会場から消え、犯人ではないかと疑われる。読者もオリバーたちと一緒にハラハラしながら、RK-D2を盗んだ犯人をさがし、マジックを見まもる。緊張感と面白さのバランスもよく、ふんだんなイラストもストーリーの一部として想像力をかきたてる。マジックあり、ミステリーあり、ユーモアありの、小学校中学年前後にぴったりの1冊だ。
とにかく各キャラクターが生き生きしていて魅力的だ。オリバーはおそらくビアとティーニー以外に友だちのいないタイプで、クラスでの存在感も薄い。マドックスとオリバーの関係は、ジャイアンとのび太を彷彿とさせる。また、変わり者と思われているようだが、同じく変わり者のローズがパーティに招待されているのを知り、ちょっと複雑な気分を味わう。一方、ビアとティーニーは自己主張をしっかりするタイプで、マジックショーの売り込み時にもギャラの交渉を忘れない。ふたごだが興味関心はバラバラだ。飼っているネコ(1匹)をビアはキャリコと呼び、ティーニーはフリーダと呼んでいて、お互いに譲らない。ネコの迷子札も、片面にキャリコ、もう片面にはフリーダと書いてある。
そしてしゃべるウサギ、ベニー。いろんなマジックを知っているうえに、謎を解く知恵もあるという設定だ。1巻ではベニーがしゃべることを知っているのはオリバーだけなので、ほかの人に聞かれたときはオリバーがひとり言をしゃべっていると思われている。しかも水洗トイレの流し方を知っているなどユニークなディテールも描かれている。
本の構成も工夫されていて、まずはイントロダクションで作者が読者に話しかけ、何か月も取り組んできたマジックを披露すると言って本の世界へいざなっている。たしかに読書は一種の魔法のような体験だ。これから魔法の世界に入るのだと、読者はワクワクする。また、巻末にはフォー・ジョーカーズの種明かしと、練習のためのヒントが載っている。実際に友だちのバースデーパーティや学校のイベントで披露するのもいい。なお、本書の作者スードニムス・ボスとイラストレーターのシェーン・パングバーンは、学校訪問や書店イベントを一緒にまわり、生徒がマジックを披露する時間も作っているようだ。本のなかの世界にとどまらない刺激をくれる、楽しい本である。
なお、第1巻ではあまり登場しないが、第2巻ではふたりのパパが大フィーチャーされる(もちろんマジックとミステリーも)。ずっと一緒に暮らしていたが、やっと正式に(法律上)結婚できることになり、結婚式を行うのだ。LGBTQをテーマにした本が次々に紹介されているが、「パパがふたり」という状況と家族のきずなをごく自然に描いている本書も、ぜひ日本に紹介したい。
シリーズ紹介
第2巻 The Unbelievable Oliver and the Sawed-in-Half Dads
『アンビリーバブル・オリバーと半分に切られたパパたち』
ビアとティーニーのふたりのパパ、サイモンとミゲルが正式に結婚することになった。ふたごが赤ちゃんのときから一緒にいるが、むかしは男性同士は結婚できなかったのだ。結婚パーティでオリバーはマジックを披露することになった。ミゲルが入ったひつぎをのこぎりで2つに切って元に戻すというマジックをするのだが(下半身部分にサイモンが隠れている)、無事にマジックが成功し、サイモンを出そうとすると、なんとサイモンは消えていた!
オリバーとビアとティーニーは、パーティ会場に張りめぐらされている秘密の通路や、庭の大迷路を駆けまわり、必死にサイモンを探す。一方、結婚式の準備は着々と進み、ゲストも集まってきた。みんなの不安がつのるなか、サイモンが見つかったのはなんと、10段のウェディングケーキの中! そして犯人はグレート・ズーキーニだった!
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