クラス係の仕事をすると、給与がもらえる!?デンマークの小学校で行われる驚きの授業とは
――塾に通う高校生2年生に『勉強は好きですか』と聞いたんです。すると、84%もの生徒が『勉強が嫌いだ』と答えました。
これって、すごいことだと思いませんか?
だって11年間ほぼ毎日勉強して、最終的に80%以上の人が勉強が嫌いになるということなんですから。
これは「ビリギャル」の著者である坪田信貴先生のあるインタビューのなかでのコメントだ。あなたは勉強が好きな20%、嫌いな80%、どちらに入るだろうか。
この言葉にも表されている通り、大半の人は休み時間や放課後を心待ちにしていた…というのが正直なところかもしれない。
そんな「楽しさ」と「学び」が乖離している現状を変えようとある研究がハーバード教育大学院で行われているという。「Pedagogy of Play」つまり「遊びの教育学」という分野だ。
ホームページには「遊びと学び」をつなぐ、多くの実践が紹介されている。今日は、そのうちのひとつを紹介してみたい。
「playing with Money」お金で遊ぶ!?
舞台となっているのはデンマークのビルンにあるインターナショナルスクールだ。ここでは読み書き、算数といった定められたスキルを、子どもたちが楽しめる、まるで遊びのようなカリキュラムを通して提供することに力が入れられている。
とはいえ「遊ぶように学ぶ」は、言うは易し行うは難しである。特に、子どもがすべてのコントロールを握る「遊び」とは違い、獲得すべきスキルが決まっている「教育」は結びつけることが難しいことから「遊びと学びのジレンマ」と呼ばれてきた。
報告書では、Idah と Marcという2人の教員がどのようにして「遊びと学びのジレンマ」を解決しようとしたのか――生徒のアイデアや遊びたいと欲求を取り入れつつ、指導カリキュラムを同時に行うことを可能にしたのか――について述べられている。
読み進めてみると、
・先生の給与明細が教材に!?
・クラス内通貨で買い物
・クラス内で職業が生まれ、職業に応じて給与が支払われる
など、いかにも面白そうなカリキュラム・教育実践が並んでいた。
Playing with Money:Playful Learning Meets Curriculum Goals
クレジットカードに興味を持ち始めた小学2年生
カリキュラムの話をする前に、ある生徒を紹介したい。
小学2年生のMetteは、ある日家族で買い物にでかけた。両親がクレジットカードで支払いをしようとすると、その様子に目をとめたMetteはこう聞いたという。
「ねえねえ。パパとママの口座には、どのくらいのお金が残っているの?クレジットカードは後払いだから、引き落とされるときまでに口座に十分な金額がないと、あとから困ったことになると思うんだけど」
両親は娘がクレジットカードの仕組みや機能を知っていることに驚いたという。
なぜ、小学校2年生の女の子がクレジットカードに興味を持ち、その知識を持っているのだろうか。それを知るためにも実際に学校で行われた「遊びと学び」に着目してみたい。
クラス内通貨と、給与システムがある小学校!?
Idah と Marc先生は、ビルンインターナショナルスクールの教員であり、授業の設計をしていた。彼らは、足し算や引き算という算数の知識や、モノの売買の仕組みという社会の知識をどのように生徒たちに伝えるかを考えた結果、子どもたちが楽しめそうな「お金の遊び」と結びつけることにした。
インターナショナルスクールには、様々な国にルーツを持つ生徒たちが集まってくる。そこで授業は、生徒たちがそれぞれの国のお金を調べ、自分たちのクラスにはどのようなお金をつくるべきかを話し合うところから始められた。
▽実際に作られたお金
クラス内通貨ができると、Idah ・Marc先生は子どもたちにこう聞いたという。
「このお金をつかって何したい?」
子どもたちからは様々な意見がでたが、意見のひとつであった「仕事をしたらお金をもらえるような仕組みをつくる」が採用されることになった。
そこで、子どもたちはどの仕事をしたら、どのくらい給料がもらえるかを話し合った。
ランチ係はやることが多いし、トイレ係は大変――そんな意見から徐々にクラス内の役割に対する給料が決まっていく。さらにお金を管理する銀行係は計算が得意でなくていはいけない、と役割に向いている人とそうでない人の特徴も話し合われたという。(結果、たくさんお金がもらえる役割は奪い合いとなったというから面白い)
Idah ・Marc先生は生徒たちの話し合いの様子をみて、この給料を決めるプロジェクトと、算数の棒グラフの学習を結びつけることを思いついた。そして実際に作られたのが、この給与テーブルだ。
▽実際に作られた給与テーブル
また、Idah ・Marcは、このプロジェクトをより現実社会に即したものにしようとあることを考えた。
そして、なんと自分たちの給与明細を教材として生徒たちに見せたのだ。
給与からは何の税金がどのくらいとられているのか。また、その税金はどのように使われているのか、という社会の知識を子どもたちは先生の給与明細から学ぶことになった。
その後クラスでは「机税」「椅子税」「水税」「紙税」「トイレ税」などの税金が生まれた。「ほかの人を助けたいから税金をちゃんと払うわ!」とある生徒は言ったという。
クラス内でショップ開設
徐々に給与がたまってくると、子どもたちはお金を入れるお財布をほしいというようになった。カリキュラムの目標からは少しそれいたが、Idah とMarcは子どもたちがとてもやりたがっている様子をみて、財布をつくる材料を集めたり、作り方のyoutubeをみる時間をつくった。
▽自分の好きな方法で財布を作る生徒たち
しかし、子どもたちの「遊び」はこれで終わらなかった。「作ったお金を何かに使いたい!」というのだ。
子どもたちはIdah とMarcにショップを開設したい、と伝える。もちろんこれも最初のカリキュラムには含まれていなかったが、Idah とMarcは子どもたちに「何を売りたいの?」と聞いてみることにした。
すると、子どもたちは自分で何かを作ったり、家にある不用品を学校に持ち込んで売り始めた。また、授業時間以外でもショップの開設準備が進められ、クラスメイトが何を欲しがっているのか調査し、時には価格交渉まで行われたという。
その様子を見たIdah とMarcは「遊び」があれば子どもたちは自分で目標を決めてチャレンジし、役割を決め、熱中できる、ということを改めて感じたという。
感謝祭特別セールと算数の学び
ある日、ひとりの子どもがIdahにこう話しかけた。
生徒:ねえ、先生。感謝祭っていつだっけ?
Idah:木曜日ですよ。
生徒:そしたら、次の日の金曜日はブラックフライデーっていうことね!
Idah:ブラックフライデーって…?
生徒:感謝祭のあとは、お店に残ったものが安くなるでしょ?それがブラックフライデーなの。
生徒たちが安売りセールに興味をもっていることに気づいたIdahたちは悩んだ。割引の概念や算数の手順は2年生のレベルではない。生徒たちには少し難しいかもしれない。でも、こんなにも興味をもっている瞬間を逃してはいけないのではないか――
そう考えたIdahたちは、割引の概念を生徒たちに伝えることにしたのである。
▽クラスでモノを売る生徒たち/割引の計算をして価格を決定する生徒たち
――続きは、11月30日更新予定
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