札幌市教育委員会のGIGAスクール構想
みなさんは、GIGAスクール構想という言葉を聞いたことはありますか?
GIGAスクールのGIGAは、ギガバイトなどの「GIGA」ではなく、 Global and Innovation Gateway for Allの略で、「GIGA」となるそうです。
では、そのGIGAスクールとはどういったものなのでしょうか?
GAGAスクール構想とは?
文科省が打ち出した構想で、下記2点が項目としてあげられています。
これまでの教育実践の蓄積に、ICTの力を合わせる事で、学習活動の一層の充実と、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善をすることができる。
と文科省の資料では記載されています。
では、私たちが住む札幌市では、どのようにGIGAスクール構想の整備が進んでいるのでしょうか?
GIGAスクール構想では下記3つの項目が、要になると言われています。
札幌市教育委員会に訪問をし、一つずつ順を追ってお話をお伺いしてきました!
校内LAN環境の整備
昨年の12月に国から示された元々の案は、最初に小学校5、6年生と中1。翌年には、中2、中3と二学年ずつ、合計4年越しで導入をしていくというものでした。しかし、4月に「新型コロナウィルスの対策もあり令和2年度中に全学年に端末入れますよ!」と、急遽、動きが加速したのです。これによって、校内のネットワークも1クラス辺り50台がつなげられる無線LANが必須になりました。急な動きで、全国的に端末とか工事が待ち合わないという状況が起こることとなりました。
札幌市の場合は、元々無線LANの配線は各教室に既にされていたのですが、前述の「一気に50台がつながる」というところに、機械が対応していなかったんです。そこで、今は、アクセスポイントを全部入れ替えて、インターネットへの接続も太くしてという対応を急ピッチで進めています。
10月~11月にかけて、より一層学校内工事が本格化する予定なのですが、市内に小中学校が約300校あるので、授業時間帯を避けての工事となると、どんなに複数の業者さんに頼んだとしても、やっぱり時間はかかってしまいますよね。
学習者用PCの導入と学習ツールと校務のクラウド化について
現段階では、「まずは端末を入れる」というところの予算繰りを進めている状況です。本来であれば、3年ぐらいかけて行う予定だったものを、年度内でぎゅっとまとめて実施するので、結構タイトな対応になっています。
これが札幌市で導入予定のchromebookです。札幌だと、1学年当たり1万5000人の生徒がいますので、小中合わせると約13万台の端末が必要な計算になります。今の時点で4,000台は購入済みです。OSをchromeで指定したのですが、結果的に全部この端末になりました。キーボード付きの折りたためて、タブレットにもなるし、カメラも表裏両面についています。一見、ノートパソコン型ですが、タブレット型としても使うことができます。
今のところは、学校の中で使ってもらう前提の端末です。家庭に持ち帰って使うということの可能性はありますので、将来的にはそういう使い方も考えてはいるところです。ただ、まずは学校の中でちゃんと使ってみようというところから始めていきたいですね。
この端末は丈夫さを出すためにも少し重いんです。ただ、丈夫なので共有PCとしては最適なんです。この端末の中には、オフィス機能(文書作成や表計算)もすべて入っていて、教育用のソフトウェアもいくつか入る予定です。
今後、先生にとっては、採点を含め、評価や校務を効率的にできる可能性が出てくるので、校務のクラウド化は検討していきたいな、と思っています。
通常の授業ではスピードが早すぎて付いていけないという子や、逆に、学習進度が早い子に合わせて問題を出してくれるような、AIドリルみたいなものが出てきている中で、札幌でもそういったものを活用していくことはできないかなど、将来像について話をしています。
―教育のコンテンツはどうやって作っていくのでしょうか?
札幌市には小中学校が約300校、約8,000人も教職員がいるものですから、校長会と情報共有をしたり、先生から指導主事として教育委員会での勤務をしている人が居るので、そういう人たちから声を聞きながら、組み立てを進めているのが現状です。
例えば、端末を実際に使ってみると、資料作成ソフトも入っているのですが、本当に小学校の1~3年生でパワーポイントを駆使して授業や資料作成をやるべきなのか、そこに取り組むべき学習課題はあるのかなど、検討することはたくさんあります。今の低学年の話でいうと、それってちょっと違うよねって思うんです。低学年には低学年に応じた使い方っていうものがあるでしょうと。
子どもの発達の段階に応じてどのようなものが良いのかということを、私たちのような教職員から教育委員会に来ている者が検討して、市役所側から来ている人たちとの検討会議の際に示して、より妥当性のある教育コンテンツを探っていった方が良いと思っています。
ただ、正直、指導主事もこの端末を使って授業をした経験がある訳ではないので、「やりながら考える」という話になると思っています。そうなったときに指導主事が一人で作って示していくというやり方ではなく、やはりモデルになるような学校に実際の取組をお願いして、先行してタブレットを集中的に使ってもらおうという話になっています。
そのようなわけで、今、小中高等学校でそれぞれ1校ずつモデル校をお願いしています。まずそこに端末を先行配置し、基本的なルールみたいなところをモデル校と私たちが一緒い作っていくというイメージです。
導入の流れとしては、各学校で、速やかに進んでいけるように支援していきたいということが基本です。先ほども申し上げた通り、小1~中3までそれぞれのスタートアップの仕方が違うと思うんですよね。「1年生ならこういうところから始めてください」など。ですから、そういった最初の導入期の基本的な中身については、教育委員会やモデル校の方で具体的なものを見定めて示しておきたいと。その上で、授業の中でどう使っていくのかや、更に何をするのかという発展的なところに関しては、現場の先生方の創意工夫が無限に秘められたところもあると思うので、学校で色々トライしてほしいとお任せする形になると思います。
―これからのITの利活用をどうやって行くかっていうときに、第三者委員会のようなITの専門家を入れるとか、そういったようなお考えはあるんでしょうか?
GIGAスクール構想の方では、GIGAスクールサポーターとして、技術者の補助などを行っていただく方の募集をしています。札幌市でも4月導入に向けて今募集をしているんです。サポーターの皆さんには、週に2回ほど学校を回っていただいて、先生方に教えてもらうという仕組みです。ただ、札幌はそういうIT技術者さんや、知見の深い方はいらっしゃる方だと思いますが、地方に行ってしまうと難しくなりますよね・・・。
参照:https://www.oetc.jp/ict/top/
子どもたちの学びの報酬とは
―(入澤)うちの子たちがタブレット教材を毎朝やっていて、ドリルに答えたらポイントがもらえるんですよね。そして、そのポイントを使ってゲームができるんですよ。ちゃんと子どもが飽きないようによくできているな。と。そういったのが実際の教育現場にも入ったらいいのかなと思うんですけど。
今のお話だと、「子どもたちが学ぶ意欲をどのようにして持つのか」というところかと思うのですが、学ぶ意欲の背景には「報酬を得る」という点がありますよね。大人の報酬は金銭ですが、子どもにとっての学びの報酬というのは、子どもたちが自分でできるようになって「成長した」という実感や、先生からの適切な評価や励ましと言ったような承認行動だと思っているんです。
では、それ(承認行動)が「ゲームにつながるぞ!」というもので、果たして本当に良いのかというと、「学校教育」ではそれは二次的な物だととらえているんです。学校教育では、その子たちの能力の「どこが、どう」伸びたのかという点を、先生と子どもの双方で確認しあった後に、次の課題をクリアしていけるように、先生が更なるアドバイスをしながら次の課題を設定して、クリアを補助してっていう、成長と評価のスパイラルが出来上がっていくというのをすごく大事にしているんですね。
実は、従来の教育システムだとマル付けから入って、子どもに返して、励ます・支援する。という流れまでものすごい時間がかかるんです。そして、それが10教科分あって、それぞれ全部力を入れてやるとなると、とんでもなく先生に負荷がかかることになってしまいます。
本当に将来的な話ですが、子どもたちが解いたテストや問題の結果がそのままパーセンテージとなって、パッと画面上で確認できるようになると、先生たちも子どもたちを評価をするために必要な丸付けに時間を取られることが無く、その分の時間を、子どもたちの支援に回すことができると思うんですよね。そうすると教育の質自体をあげることができるんじゃないかって。だから、私たちはこういう端末やソフトを入れるんだということは、先生方にも丁寧に説明し、普及に努めていきたいと思っています。
―端末を導入することや、システムを導入することに反対意見は無いんですか?
少しだけ、「慣れるのに不安がある」という声がありました。ただ、私生活でも皆、パソコンやタブレットって使ってますよね。教育現場でも既にICTが根付いて来ている段階で、先生方も自分の机の上にパソコンあるんですよね。それと大きく違う端末ではないので、抵抗感というよりかは楽しみにしているという声が多いですね。モデル校に説明に伺った時も、色々授業や現場でやってみたいことが生まれてきたようで、ワクワクしていると言ってくれた先生方がいました。
だんだん実績が積みあがってくれば、慣れている上手な先生がちょっと苦手な先生にアドバイスできるようになってくると思うんですよね。もちろん導入してすぐは、どうやって起動するんだから始まると思います。たぶんですけどね(笑)。でも、使ってみていくうちにだんだん慣れてきて、次のステージに進むのが早いと思っているんです。一方で、「使わない」という人をつくってしまうとまずいと思ってるんです。そういう人が出てこないように、モデル校とも調整をしているのは、日常的に「必ず端末を開くんですよ」ということ。朝出勤してからのルーティーンは一緒にしたいですよね。
―生徒が使う場合、端末の横にノートをおいて、手で書くイメージなのでしょうか。
そうですね。折りたたんでこのように横にノートをおいて手で書くようなことをイメージしています。小学校は文字を覚えるとか言語を学ぶ時期ですので。ただ、今までだと学校教育って「インプットすればいいんだ」と言うイメージも強かったんだと思うんですよね。インプットした量で成果が図られる指標になっていくという時代がずっとありましたよね。でも、我々もそうですが、社会人になるとそういう仕事の仕方ってしないですよね。「入力だけしてノート閉じたら全部おしまい!」ってならないじゃないですか。インプットしたことをアウトプットするのが仕事な訳ですよね。そうなると、小学校の教育も1、2年生はインプットの時間が多いですが、今の子どもたちは、学年が上がっていくに連れて学習中のアウトプットも増えてきているんです。ホワイトボードとか模造紙とかに、子どもたちが「私はこう考えます」って描いて、発表をするっていう授業が普通に行われているんですね。
中学生になったら、ホワイトボードがあったら4人ぐらいで顔を突き合わせてアウトプットをしながら、共同的な学びをするということもやるようになるんですね。それが、ホワイトボードからこの端末に置き換わるとイメージをしていただければいいと思うんです。この端末を使って、どうやってアウトプットを充実させていくのかというところが大切になっていくと思っています。
我々の仕事もそうですが、今何かを考えるということになったら、ノートに雑記として書き出すかもしれないけど、まとめるってなったら違うものに書いていきますよね。そういう、社会での生き方働き方とかなりリンクしていくようなことを、学校教育としてやっていきたいんです。だからこそ、ノートも端末も両方使っていくよというスタンスをとりたいですね。ただ、デジタル教科書含め学習を補填する資料集などがあるんですが、それがどこに位置づくのか、という点は国が今も検討を続けているんです。(2020年10月6日時点)
―資料集を無くしていいのかって言うと、そうではないものですしね。プリント類とかは無くなっていきそうな気がしますよね。学校からのお知らせだとかそういった物も全部。
そうですね。この新型コロナウィルス感染症対策による一斉休校のときは、「配る」という行動ができなかったので、ホームページでかなりアウトプットをしていました。ただ、学校によって違いはあるものの、多くの保護者の方々がホームぺージで見てくださる状況になったのでそこは良かったなと。一つ分かってきたことは、どうしてもパソコン等は使いたくないという方もいらっしゃるので、デジタルで100%補完出来るかというとそうではないんですよね。
それでも、「プリント類を始めオンラインで情報発信をしていく」というのことは、学校で結構できそうだなという予感はしてるんですね。例えば、学校の中で子どもたちに連絡するときは、朝学校に来てパソコンを開いたら、画面に先生からの連絡が表示されるようにしておくとかですね。色々工夫出来たら良いですよね。
―機械の話になってしまうのですが、もう少し軽くして、低学年にはキーボード無のタブレットでっていう選択肢はなかったんですか?
低学年の子たちにもこの端末が配布されるとはっきり決まったときに私が思ったのは、この端末の方が1~2年生だと扱いが簡単だと思ったんですね。こうやって正面に座って見ることができるので。キーボードというよりは「台座」というイメージかもしれませんが、安定感があるんですよね。先生の視点から行くと、1年生がタブレットだけ持ってってなんだか落ち着かないなと思うんですよね。低学年って、イスにきちんと座って一定時間我慢するとか、勉強するとか、人の話を聞くと言ったようなことを学びますが、そういう経験って人生で初めてのことだと思うんですね。学習指導要領には含まれてないですが、座る姿勢って言うのを教えて欲しいっていうニーズが保護者の方からもありますし、医療の面から見ても内臓の発達に悪いからちゃんと座るように学校で教えてくれと言われたり。色んな人の声が入り込んできて、今子どもたちを育てているカリキュラムが構成されているんですね。授業で教える以外にも「人を育てる」といったような役割も学校にはあるわけです。
今後目指す取り組みや、施策
―札幌市として独自に、こういうことをやっていくとか。全国に先駆けて札幌が注目されるような、札幌市の教育がすごいんだよって注目されるような施策って考えられたりしているのでしょうか?
私たちとしては、自分たちの地域に住んでいる子どもたちのことを見ていので、他都市と比較してということではありませんが、うちの地域の子どもたちに今やれることをしっかり努力したいというスタンスをもっています。
先ほどからアウトプットを強調しているのですが、端末を入れたら、それを使って子どもが課題をちゃんと自分で見つけて、それを自分の力で解決していく「課題探究的な学習」というものをがっちり取り組もうとしてます。
ですから、単に端末をドリルに使うとか、タイピングの練習だけするとか繰り返しの学習だけではなく、学びの解決ツールとして使うんだということを研究していこうという話になっています。
例えば、札幌開成中等教育学校を視察していただいたことありますか?開成は一人一台iPad持っています。開校して最初に入学した子が今年6年生(一般でいう高3)になって卒業して行くんです。彼らがiPadを使っている様子を見ると、端末の中に自分の学びの履歴とか、調べてきたことのデータとか全部入っていて、完全に学習ツールになってるんですね。端末を使いながら、「前の時は、自分はこういう学び方してたけど、次はこういう学び方になってきていて、解決の仕方が自分としては広がってきてるんだよ」などと、自分で分析できているんですね。それが開成のすごさなんですけど、今では、それを先生方が手取り足取り教えるだけではなくて、実は開成の5、6年生あたりが下の学年にそれを教えていけるようにもなっているんです。
子どもたちが自分たちで課題を探究しながら、そして別の子に「自分の解決方法、調べ方ってこういうロジックだよ」って説明したり、「分析はこうやってやるといいんだけど、ちょっと不足してると思うんだよね、どう思う」と言ったような、解決のプロセスの交流が生まれているんですね。今までは、「5+3は8になるね。」という授業が当たり前だったのですが、これからは「何でどうなるのか、どうしてそう考えたか」の様なことを考え合うような授業が当たり前になっていくんだと思います。また、小中高と進むにつれて、子どもたちの学び方も変わって行きますよね。開成のモデルを、他の学校でもだんだんやっていくようにしたいなと思っています。
そのためには、これから小学校と中学校とのつながりというのは結構大事になっていくと思うんです。
(参考)https://www.jt-tsushin.jp/interview/jt10r_sapporo/
端末を利用した学習は小学校と中学校で、切れ目なくやっていくという活用ですね。「切れ目なさって何か」という点で言うと、単に”端末を使える”ということではなく、課題探究で一気通貫していくという視点が重要だと思っています。
―最後に北海道IT推進協会の会員企業に求めるモノや、なにかコメントはありますでしょうか?
学校現場では、実はすごく機械が苦手な人は多いです。
札幌市だと、学校によっては、IT業界の方が保護者なことも結構あるんですね。学校からすると、その方がPTAの保護者の1人としてかかわってくれたり、ITに関するちょっとした支援をしてくれたりしてもらえると助かるなと思っています。学校は自分たちが少しでも効率的になって、簡単に言えば負担が減る中で、何かいいものが増えるっということは拒まないんです。企業としての立場だけでなく、学校の教育支援にお力添えいただけるとありがたいです。
―本当にいい話が聞けましたありがとうございました。少しでもできることがあればIT業界としても積極的に応援したいと思いますのでよろしくおねがいします。どうもありがとうございました。