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「福祉の心」を忘れた窓口のあり方こそ、福祉の窓口にふさわしい

公務員の世界ではちょうどいまくらいの時期に、今年度の目標について上司と部下との面談がセッティングされ、今年度の個人目標が決まっていくという流れになっているところが多いかと思います。この目標設定について、前回の記事に私なりの考え方を書きましたが、私も今年度の目標が定まりました。

今年度の目標について

今年度の私の業務目標は大きく2つ。

  • オンラインでできるものはどんどんオンライン化していく

  • 予約専用窓口を導入する

1点目はそのままのとおり、今まで紙でしか受付をして来なかった業務について、私が所管する分でオンラインで申請できるものはできる限りオンライン化するという目標にしました。

と同時に、どうしてもオンライン化できないもの(記載内容の相談等)は残ってしまうため、こちらについては窓口をオンラインによる予約制にし、予約専用窓口の導入を進めていくこことしました。これが2点目です。

役所(福祉部門)の窓口のイメージ

「役所の窓口」というとどんなイメージが思い浮かびます?

私は、そこそこ年配の職員がスーツでも私服でもない制服のようなジャンパーを着て、書類を淡々とチェックするイメージを持っています(昭和な感じですかね、、、)。

また、窓口には常に誰かが座っていて、いつ誰が行っても同じように受付業務をしてくれる。そんなイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

特に「福祉の窓口」と聞くと、市民の方が手ぶらで来庁・相談し、相談内容に応じて職員が申請用紙を取り出して、来庁者がその場で申請書に書き込んでいく、というイメージを持つ方も多いかもしれません。

イメージと実態はかけ離れている

ところが実際はこういったケースは少数です。最近はあらかじめ申請用紙を郵送しておき、それを持ってきてもらうという事も増えています。

「あらかじめ申請用紙を郵送」というのはどういうことを意味するのか。それは役所の受付業務の大半が実は年度更新だということ。児童手当などは出生や市外転入といった新規の申請が多いのは事実ですが、こういった例は実は少数で、例えば精神障がい者保健福祉手帳の更新(2年に1回)や、児童扶養手当の現況届(1年に1回)といった、毎年定例的に行われる手続きのほうが多数を占めています。

こういった更新業務の中には、障がい者やその介護者が高速道路を利用するときの割引証明書を発行する等、「これって民間企業の仕事の肩代わり?」と思しきものもありますが、興味のある方は過去の記事を御覧ください。

(なぜか③だけめちゃめちゃ読まれています)

話を本題に戻しまして。こんな感じで役所の福祉担当窓口で受け付ける書類の大半は年度更新であるため、「どこに何を書いたらいいかよく分からない」という方が、職員から懇切丁寧に教えてもらいながら、申請書を手書きで埋めていく、という牧歌的なイメージとはかけ離れているのが実態です。

イメージに縛られることのデメリット

以上のように、福祉の窓口業務の多くは定例的・反復的な業務であるため、いつ誰が行っても必ず対応してくれるという体制をとることが必ずしも効率的とは言えない側面があります。

いつ行っても必ず対応してくれるとなると、書類を役所に持って来られる方々は、こちらから指示しない限りそれぞれにとって自分に都合のいい時間を選んで持って来ることになります。

するとどうなるかというと、「天気がいい、月曜日の、午前10時台」なんかに人が集中し、混雑が発生することになります(週末に書類を送ったときの反響はなかなかですw)。

窓口が混雑することを私の職場は大変恐れており、一定以上の人数が待っていると判ると当番制で応援に入ることになっています。

混雑するのが午前10時だとすると、人間の頭脳がよく働く時間帯。集中力をよりクリエイティブなものに使いたいのに、応援を呼ばれると作業を中断して窓口に出なければなりません。これは見えない機会損失。個別最適の総和は必ずしも全体最適になるわけではありません。

「福祉の心」を忘れてみた

そこで私は上記2つの柱を立てました。すこし生々しく表現すると、福祉の心を忘れていることがよくわかります。

  • オンラインでできるものはどんどんオンライン化していく
    そもそも役所に来る人を減らそう。そうすれば不必要に窓口応援に呼び出されることも減り、午前中の貴重な時間をクリエイティブな仕事に充てられる。

  • 予約専用窓口を導入する
    →どうしても来なければならない方については、混雑しないように分散して来てもらおう

こんな風に書くと自分勝手な目標に見えてしまいます。

が、各種制度を利用されている方や御家族からしても、上記の考え方は実は優しさにあふれたものなんです。

「福祉の心」を忘れた窓口のほうが福祉の心にあふれている

実際に私は窓口で受け付けた書類がオンラインでも申請ができるものだったら、オンライン申請できることもお伝えしているのですが、「できない」という声を聴くこともあります。先日も「私らみたいな年寄りなんかは、スマホや何や言うても分からへんからなあ」といった感じで言われました。スマホ持ってるのに。

こういった方に私はこう伝えています。「家を出るのにわざわざ支度をし、真夏の炎天下や真冬のヒートショックのリスクを冒して何十分もかけて来庁し、挙句の果てに何分も待たされて、手続き時間は数分。そして何十分も時間をかけて帰る手間やしんどさを考えたら、空調も効いて快適な自宅で手続きが済むほうがよっぽど優しいと思いませんか?」と。

常に付き添っていないと命に関わるような障がいを持つ御家族がいる方にとっては、役所に行くために家族をどこかに預けるか、介護を誰かに代わってもらう必要があります。が、オンライン申請なら要介護の方が寝静まったときにパッと手続きが完了します。そっちのほうが負担が少ないと思いませんか。

いつ行っても誰かが必ず対応してくれる窓口をやめる。定例的な更新業務で窓口に来る人が減ることで、例えば虐待とかDVといった緊急性の高い事態にもより柔軟に対応できる余力が生まれる。これこそが本当の意味で福祉の窓口にふさわしいと考えています。

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