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【オリジナル】青春のパズル feat.Mai

この曲は、2024年12月7日ニコニコ動画の「ボカロオルタナティブ祭2024」に投稿したものです。
メロディアスなバンドサウンドで、僕のオリジナル24曲の中でも評判がよくて、ありがたいことに2週間経った今も再生され続けています。
実はちょっと意外なエピソードもある曲でして。
そのあたりのことを中心に書いてみますね。


発表される予定がなかったデッドストック曲

いきなりとんでもない見出しですけど事実なんです(笑)
実はこの曲、1年前に楽器の録音やミックスまで全部終わって完成してたんですけど、いろんな兼ね合いの中で発表し損ねて、結局デッドストックにしちゃった曲なんですよね。

え~なぜ?って思いますよね。
理由になってないかもしれないけど、実はこの頃「ボカコレ」という大きな投稿祭を控えていて、そこに投稿するにはちょっと場違いなのかなと思ったからなんです。

ボーカリストはSynthesizerVに標準付属の「Mai」。初音ミクやGUMIのようなボカロチャートを賑わかすようなキャラクター系のボイスバンクじゃないし、手前味噌のベースとギターで作った曲は、今どきのボカロ曲でよく聴かれるシンセ系の派手なアレンジには到底及ばない。

ただ完全にデッドストックにしてしまうのも心苦しく、ボカコレ用に大胆なリメイクを施せばなんとかなるような気がして、救済措置を行うことにしました。方針は次のとおり。

●ニコニコリスナーに人気のある重音テトをボーカルに
●派手なシンセをLRいっぱいに盛り込む
●シンコペーションの効いたリズムではなく4つ打ちドラムに
●テンポアップさせ、ロックではなくEDMとして聴かせる
●MVは文字が飛び跳ねるダークな雰囲気で今風に

どうですか?もはや正反対の曲ですよね(笑)
ちょっとニコニコのヒットランキングに寄せすぎという気もします。

ということで、この改変された楽曲は2024年2月のボカコレ期間中に投稿されています。ニコニコ動画やYouTubeチャンネルでも探せば出て来ますのでご興味があれば聴き比べてみてください(あえてリンクは貼りませんw)。

結果はというと、ルーキーとしてそこそこ再生数をいただくも、いいねやコメントやマイリスは寂しく、さしたる話題になることもありませんでした。そしてボカコレ終了とともに、このMai歌唱のオリジナル「青春のパズル」という曲も僕の中ではいったん「終わった曲」になってしまったんです。

ボカロP仲間の一言に心が動く

それから月日が巡って、10か月後の11月下旬。「ボカロオルタナティブブ祭」という投稿祭があることをボカロP仲間に教えてもらいます。

その時は毎週のように投稿祭に参加しており、週に1曲新曲を上げるというとんでもないペースで制作活動をしていたので、「あ~無理」と一瞬思ったんですけど、もうランナーズハイのような状況になってたんですね。4つも5つも変わらないから、出ちゃえ!と。

それで、デッドストックしてた「青春のパズル」を引っ張り出してきたわけです。オルタナティブという音楽ジャンルに、素朴なバンドサウンドの楽曲は合うような気がしたんですね。

こちらはもう完パケしてるので、ほとんど修正点もない。とはいえ最終的にドラムは全部差し替えて、ギターのエフェクト類は少し修正しましたけど。まぁその程度だったので、数時間の作業で終わりました。

レトロポップアートとの融合

曲がフィクスしたら次はMVです。
ご覧のとおり、パーカーにジーンズの普段着っぽい女の子が髪の毛をお団子に結わえようとしている1枚絵イラスト。

言うまでもなく、僕のMVに頻繁に登場するオリジナルキャラクターの「舞海(まうみ)」ですね。このイラストは毎朝修練のために描いてXで発信している「#寝起きイラスト」のひとつ。

気に入っていた1枚の線画を書き直して、シンプルな色を付けて、マバタキのアニメーションだけ作ってMVに取り込みました。なんとなく意識していたのは、盛り込みすぎないシンプルなオシャレさ。

有名なイラストレータ江口寿史さんのシンプルでお洒落な作風を意識しました。色や影を塗りこまないことで、80年代ぐらいのレトロポップカルチャーの雰囲気が出ます。

そういったレトロポップな1枚絵で3分の曲を持たせることが出来るのか?それを検証する意図を込めたのが今回のMVでした。どうしても絵を動かしたり拡大したり縮小したりエフェクトかけてエモくしてみたり、色んなことをやりたくなりますけど、それらをグッと抑えてイーブンの発想でMVを仕上げました。

意外な反応と評価

メロディーラインとか楽曲そのものの出来には自分なりの納得感があったにせよ、このオーソドックスなバンドサウンドとレトロなMVがニコニコリスナーに受け入れられるのかどうかは半信半疑でした。

ところが投稿後の反応は決して悪くなくて、ありがたいことに、むしろどんどん再生が伸びていきました。200曲ぐらいの楽曲が一斉に横並びになるボリューミーな投稿祭だったに常に10位ぐらいのポジションをキープしていて、どうなってんだこれは?… と自分でも驚いたのが本当のところです。

ありがたいことに曲の評価も沢山いただき、並べるとこんな感じでした。
1)ベースがいい
2)メロディ/コード進行がいい
3)ギターがいい
4)お洒落

楽曲分析

1)のベースについて。
褒められたことに最初はビックリしました。「他の曲で弾いてるベースと変わらなかった」からです。今までベースに評価をいただくこともなく、ことさらにこの曲のベースがかっこいいとは自分で思ってなかったんですよね。
指弾き、いわゆる2フィンガーで弾くとリズムが揺れやすいので、ミドルテンポの曲はスラップという親指の関節で弦をはじいて音を出す奏法で弾いています。
たまたまこの曲は空間を埋めるシンセやパーカッション類が少なくてベースの音がよく聞こえる状態にあったのかもしれません。結果的にこのベースのスラップ奏法が、良くも悪くも、この曲のサウンドカラーを決めてしまったみたいです。

次の2)のメロディ/コード進行について。
じっくり語りたいところですが、簡単に記します。
キーAmの曲なんですが、Amでベタに始まるのはBメロだけで、Aメロ、サビともに、Fmaj7→G9で始まり、しかもトップノートはすべてEです。
トップノートが固定されてるので、コードチェンジのギクシャク感が少なくてスピード感が出る。耳当たりもいい。ゆえにコード進行がいい/メロがいいという評価につながりやすかったのかなぁと思います。
Bメロが好きと言ってくださる方が多かったのですが、それは想定内でした。特段いいメロを仕込んだわけではないんですけど、全体を通して単純な進行の中で、意図的にここだけ変化を感じやすいようにしています。
トップノートがE→F#→F→Eと動くので、曲が段階的に展開する(または予定調和から外れる)印象が強くなるんですよね。このスパイスがあるからこそ、前述の単純なコード進行のサビに突入しても新鮮さが復活して一気に聴けてしまうというわけです。

3)のギターについて。
エレキを5本重ねています。カッティング2本。それをLRに振り分けています。センターにパワーコード。そしてハイポジションのリフっぽいバッキング。そしてソロ。
もともとエレキはそれほど得意じゃないんですけど、打ち込みでやるのは気が進まなかったので、弾けるようになるまで練習して、それからエイッと録音してます。なので、このギターをいいと言っていただけるのは実はかなり嬉しかったりします(笑)

4)お洒落という評価について。
上述のコード進行上の工夫、ベースとギターが織りなす特有のリズム、レトロポップなMV、Maiのスッキリした歌唱、いろんなものが相俟ってそういう評価につながったのかなと思います。ミックスもスッキリした聴きやすさを意識してるので、そのあたりも評価いただけたとしたら嬉しいですね。

楽曲制作者として学んだ教訓

最終的にこの曲は当初の不安をよそに、「日刊トップテン」で12/12に6位を獲得。ニコニコチャートでも上位を数日キープすることにまります。恐れ多いことに、自分の楽曲にいただいた評価としては過去最高です。
(再生数がもっと伸びた曲もありますけど、初速でここまで伸びたものはありません)

今回学んだ大きな教訓は、「楽曲の評価は制作者ではなく、リスナーが決める」ということ。にもかかわらず、この曲に自信が持てず、改変したりデッドストックにしたり、楽曲のポテンシャルを軽んじるようなトンチンカンな行動ばかりとってしまった1年前の自分は何だったのかと思います(笑)

自分の作った楽曲を信じて、タイムリーに公開して、曲の良し悪しはリスナーの判断に委ねればよかったわけです。大いに反省しました。

ただ一連のバタバタを通じて学んだこともたくさんあります。
一番大きな学びは、自分にないもの(=自分が習得していない制作技術)を無理に追及するより、自分の中にあるものを動員して楽曲を構築していくスタイルでいいんだ!と気付いたことです。

プラグインやシンセ音源をたくさん揃え、流行にして緻密なシンセサウンドを作るよりも、わかりやすい曲を作って、それをベースとギターで形にしていくスタイルの方が、もともと自分には合ってるような気がしてたし、そもそも楽しいんですよね。

それに気づかせてくれた「青春のパズル」という楽曲には感謝しないといけません。またこの曲がキッカケになって沢山の人と交流が持てるようになったことも、自分にとってはかけがえのない大きな収穫でした。

ありがとう!青春のパズル。
そして、ごめんなさい。



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