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来場者1万人越え、の「作品のない展示室」でリハーサル開始。【美術館再開日記20】

「作品のない展示室」最終日のクロージング・プロジェクト、「明日の美術館をひらくために」。そのパフォーマンスのアイディアが生まれたのは6月25日、展示室はいまだ閉めっぱなしで、職場にはオンライン会議ができる環境もなかった。休みを取って自宅でpcに向かい、振付家・ダンサーの鈴木ユキオさん、そして彼のパートナー安次嶺菜緒さんと、Zoomで会う。コロナ感染拡大を睨みながら敢行した彼らの自主公演を観たのは3月、なんと昔に感じることか。以下、日記には書かなかったが忘れたくないことを、書いておく。

アーティストたちと家で話せたのはむしろよかった。「仕事」というラベルをいきなり貼るには、あまりにも傷つきやすそうな何か、あえていえばとても個人的な部分から、今回は出発せざるを得ないという直感があったからだ。何度も沈黙をはさみながら、話した。壊れないように、とイメージと言葉を探りながら、やたらに汗が出てきたのを覚えている。誰かといっしょに何かつくるときって、こんなに発熱するんだっけ?なんか病み上がりっぽい状態…。創造の現場を、いっときにせよ自分も奪われていたダメージを実感した。

「明日の美術館をひらくために」は、したがってリハビリである。美術館という場に在る、時間と空間そのものを、あらためてみんなで味わう。美術館スタッフにとって、アーティストにとって、来場者にとっての、リハビリ。

ところが事態は急転、7月からのコロナ感染者再急増で、不特定多数の一般来場者を迎えるイベントをやれるかが、わからなくなった。が。万が一にも中止することは絶対に避けたかった、絶対に。これをやれないと絶対に次に行けない。

そこで一般来場者の参加を、断念した。とはいえ無観客公演ではない、当館スタッフが観客として参加する。ここでいう観客は受け身の消費者ではない。「時間/空間そのものを味わう」場をつくる、不可欠なメンバーである。館内の人間がみな、積極的につくる側に回ればいいのだ。いったい何が悪いことがあろうか。

という発想はしかし、なかなか理解されにくいだろうと諭され、「職員が自分たちの楽しみのために税金を使っている」という誤解もされかねないから気をつけるようにとも言われ、webサイトの告知文は注意深く書いて、7月末に公開した。↓


つくづく、「公」にまつわる理解には問題が少なくないと思う。そして「楽しむ」ことが「消費」としてしか理解されない風潮もどうにかならないか。クラスター発生に怯えながら日々館を開けている我々は、正直に言って疲れている。でも休みたいとか怠けたいというのではない。真逆である。新しい状況を創るという喜びを味わいたい、でなければお客さんとだって向きあえない。それだけなのだが。

と切迫した気持ちを抱え、プロジェクトのタイトルもベタといえば超ベタベタな「明日の美術館をひらくために」と決め、一般公開できないならあの手この手で映像や写真の記録を気長に出し続け、SNS上でいろんな人に立ち会ってもらうしかないと腹を括った。何かとアナログで泥くさい活動の多い当館だが、Instagramアカウントの開設にもこぎつけた。

8月、「作品のない展示室」の入場者数は1万人を越えようとしていた。当館としては地味めの企画展並みの人数である。このコロナ状況で、それぞれに思うところあって訪れてくれる古い友人も多かった。そんななか、パフォーマンスのリハーサルも始まった。「踊る、というより歩くだけでじゅうぶんだと思う」と、鈴木さんは静かに呟いていた。


※そもそもなんで美術館でダンスなの?と思った方は、よかったら以下の記事を。世田谷美術館はそのようにつくられている、珍しい美術館なのだ。それを知ってほしくて、「作品のない展示室」の最終部分では「建築と自然とパフォーマンス」という特集展示を見せた。


美術館再開56日目、8/6、晴れ、暑いが風あり。「明日の美術館をひらくために」、リハーサル初回。

都内のコロナ検査陽性確定者ざっくり400人。
広島への原爆投下から75年。

今日はたくさんエネルギーを出し入れ、
そのせいか眠くてたまらない。

午前、15年前のインターン学生だった人、
午後、10年前くらいからのサルサ友達。
ずいぶん会えてなかった。
それぞれの近況に耳を傾ける。驚く。
そうかあ、そうだったんだね。そうかあ。

夕方、「作品のない展示室」の
クロージング・プロジェクトを
一緒に考えてきた、鈴木ユキオさんとの
短いトークを収録。

初めて踊っていただいたのは11年前。
よく覚えている。とにかく寒かった。
ユキオさんの話も寒さのことから始まった笑。
真冬のくぬぎの木の下。
トークは2回に分けてYouTubeにアップ予定。

※よかったら以下ぜひ。各10分、全編字幕付き、公演の記録写真も多数↓




日が暮れる頃、展示室で鈴木さんと
カンパニーメンバーによる
初めてのリハーサルが始まる。

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記録写真の堀哲平さん、
記録映像の杉田協士さんも駆けつけてくださる。
上の写真も堀さん撮影。

創造の現場ってこうだった。
という、なかなかすごいことが起きる。

杉田さん撮影の映像、
「空間を感じるための/感じて生まれる動き」は、
8月後半にInstagramにアップ予定。

※映像は、その後YouTubeにもアップ。「なかなかすごい」2分。↓




美術館再開62日目、8/13、猛暑。心地よさの記憶について。

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都内コロナざっくり200人、全国で1000人。
「作品のない展示室」入場者、
気づいたら1万人を超えていた。
会期はあと2週間もある。
なかなか未曾有の事態。

もうウチでは展覧会が期待されなくなりそう、
そうなったらやだねなどと苦笑する人もいるが、
なんでそういう発想になるのか、不思議。
体感として「心地良い」と強く思える場に
出会ったら、人はそれを忘れない。

美術が〜、とか展覧会が〜、とか
内容にまずフォーカスするのは
美術好きの人間であって、
それはそれでまったく構わないし
まったく重要なことだが、

今回ベビーカーを押して初めてここに来たり
家族でわいわい訪れてゆっくりした人たちは、
きっと「また行ってもいいな」と
ニコニコしながら思っている。
当館が何をやっていようが、である。

1万人のうち、そうだなあ、
きっと7000人か8000人くらいは
そういう人たちだと思う。
そのすごさ。そこが未曾有なんである。

それはともかく、
「作品のない展示室」の
クロージング・プロジェクトのために
インスタのアカウントを開設しました。
フォローぜひ。
setabi.performance

来週からいろいろアップします。
今週はそのためにまたまたたくさんの
アイディア交換を各方面で。
そしてさらにその先のささやかなドリームも。

思いつくと
その辺の裏紙にメモを始めるタチである。
出先で紙がなければ、
レシートとかにちっちゃく、ちまちまと書く。

先日はレシートよりはマシなメモ用紙が
ポケットに入ってた。
ちまちま書いて写真撮ってすぐに人に送った。
ドリームは即シェアで育つ。と思っている。

写真 2020-08-13 23 07 56


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