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なぜ、あの募金箱はいっぱいになったのか。【美術館再開日記25】
日々いろいろびっくりが続いた「作品のない展示室」だが、なかでも募金箱には驚愕した。置いたのは初めてで、とりあえずやれることをやる、の一環だった。最終日、箱は、ぎっしり埋まっていた。たくさんの小銭と、何十枚もの千円札で。
「お願いだからお金を払わせてほしい」というつぶやきをSNS上で見かけたときは、そう感じていただけた方もいるんだな、とは思った。ありがたい限りだ。何も作品がないのに。そう、美術館の中の人間にとっては、「作品を見せる」ことに対して(のみ)対価をいただくのが常識である。
募金箱に入れられた志には、これからの企画展への応援という意味もあるだろう。だから厳密には「作品のない展示室」だけに対するお気持ちではないかもしれない。が、ネット上で募金を呼びかけてこんなことになっただろうか。やはり「作品のない展示室」を体験したからこその返礼なのだと思う。本当にありがたい。と同時に、美術館が提供できる体験とは何なのかを、これほどダイレクトに再考させてくれる材料もなかった。
自分たちが身を置く空間そのものを、じっくり味わうこと。心地よい空間に身を置くこと。それは(特にコロナで外出自体が貴重なイベントになったいま)、人が自覚しているよりも、きっとずっと大事な体験なのだ。
日記後半は、企画の主担当者との会話から。「自分が踊るわけでもないのに最終日に駆けつけたアーティストたち」の話が出てくる。「作品のない展示室」のクロージング・プロジェクトは、過去に当館の空間で何らかのパフォーマンスを行ってくれたアーティストたちに参加を呼びかけたものだった(それらのパフォーマンスについては「作品のない〜」の最終パート「建築と自然とパフォーマンス」でスライド上映した)。↓
クロージングの構成・振付自体は、鈴木ユキオさんというひとりのアーティストに依頼してあったから、他の人たちは「参加」といっても、自分たちが主役のようにガッツリ踊るとかいう状況ではない。それでも私は「立ち会っていただけませんか。ともに場をつくっていただけませんか」と皆さんにお手紙を書いた。そして全く予想を超える多くの方が駆けつけてくださったのである。なぜだろう。
それは主担当者がいみじくもつぶやいたように、彼ら彼女らが「一度でも」、「しっかり空間とつきあってくれている」からに他ならない。そう、たぶん、アーティストたちにとってもやはり、空間を味わうという過去の経験が、鍵になっていたのだ。
クロージング・プロジェクトについてはこちら。↓
美術館再開76日目、8/29、猛暑。募金箱がすごいことになっていた。
都内コロナざっくり300人。
今日からは2階コレクション展が第2期に。
来週末からはいよいよ1階も「作品のある展示室」に。
ただしこれもコレクション展である。
当館の、ある意味でカオス上等!!な
コレクションの表情がよくわかるもの。
実は4年前の開館30周年記念に開催した企画展
「コレクション 5つの物語」をほぼ再現して
コロナな今「再読」しよう、というものだ。12月5日まで。
入場料は200円。
というか1階も2階も両方見れて200円。
なんじゃそりゃと思われそうだが
まあ一種の「コロナ価格(破壊)」である。
ちなみに(なぜか)私が担当する年明けの魯山人ルソーだって、
2階の観覧も含めて、500円である。
(正確には「器と絵筆ー魯山人、ルソー、ボーシャンほか」展という。
いちおうもっともらしい紹介文だけは書いてある。↓)
※2020年11月初旬に「もっともらしい」非常時バージョンから「ちゃんとした」バージョンに更新された。
ともかくこっちはコレクションしか見せられないし
コロナでみんなのお財布も寂しいだろうし、
で、こうなっている。
ところで。
「作品のない展示室」を開いて1週間後に、
初めて館内に募金箱というものを置いた。
「コロナに計画をさらわれました」という
トホホなメッセージを添えて。
文面を用意したのは上層部である。
トホホだが本当のことなので仕方ない。
とりあえず職員が最初に
自分の小銭をちょっとだけ入れて、
出口の自動扉近くに置いといた。
それを先日の閉幕時に回収したわけだが、
エライことになっていた。
お札。お札。お札。であったのだ。
差し障りがあるので詳細は控えるが、
来場者の1割以上の方が普通に
「企画展」の一般料金を
投入してくださったような感じである。
…あ、間違えた、さすがに1%だった。。
それでもそれでも、
これはすごいことではなかろうか。
来館者アンケートの結果も出てきた。
9割が都内の方、うち6割が世田谷の方。
9割がSNSで知って来場した、とも。
これまでの定番パターンが完全に崩壊。
コロナ…。破壊と創造の両輪が回っている。
追記:先ほど当館ブログで募金額が公表されたので、
ここにもざっくりの数字を書いておく。
40日で約18万円。
美術館再開77日目、8/30、猛暑。代休。なぜあんなにたくさんのアーティストが来てくれたのだろう。
コロナ情報も休む。たぶん200人とかだろう。
とうもろこしの皮を剥きながら、
「作品のない展示室」の主担当者が
閉幕翌日の夜、つぶやいたことを考える。
今回のは何だったんだろうね。
今でもわからないよ。ヌルッとした感じでさ。
それにしても、クロージング・プロジェクトで
あんなにたくさんゲスト・アーティストが来るってすごいね。
自分が踊るわけでもないのに、
とにかく来てくれたわけでしょ。
一度でも、みなさん空間としっかり
つきあってくれてると、そうなるのかな。
そういえば、美術館関係者って来たのかな。
今回あんまり来てないよね?
…美術館関係者。学芸員ということか。
いや、個人的に把握している範囲では
あの人もこの人も来てくれたし、
あの方も連絡くれたし、それなりに
来てるんじゃないかと。
と思ったところで
その人々はみな、
「来館者は美術館で何を経験するのか」に
ふだんから大きな関心を持っている方ばかり
だった、と気づく。
いや、偶然かもしれないが…なるほど…。
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