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アーティストとすごす時間の、手ざわりについて。【美術館再開日記12】

直接会いたいひとに会う機会を奪われる。そのしんどさは書くまでもない。7月、かなり緊張しながら、そろりそろりと仕事で遠出をし始めた。長くおつきあいのあるアーティスト一家を久しぶりに訪ねた日、その午後から夕方の光は、今もからだに染みついている。そういう日のことは細かくメモしておけと、後日先達に言われる。またしても記録、というテーマ。私たちはすぐに忘れてしまうから。でも、ここに短く書いた「生まれるものは生まれる」という以上のことを、いまだに書けずにいる。

美術館再開39日目、7/16。久々の遠出。アーティスト一家を訪ねて。

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都内のコロナ感染確定者286人。

午前中は私用、
午後は「特集 建築と自然とパフォーマンス」でも
ご紹介しているアーティストのお宅を訪ねる。

今日を含め、この15年のあいだに、
そのご一家全員とのおつきあいが生まれたことになる。
大切なご縁とはそういうものだと思う。
皆さんアーティストである。

お邪魔するといつも長くなってしまう。
明るいうちに訪ねているのに、
お話に耳を傾けているうち
気づいたら部屋は暗くなっており、
気づいたら美味しいワインやお手製のつまみが。

恐縮し始めるとキリがないので
ありがたくいただきつつ、
さらにお話に聴き入る。

コロナだろうがなんだろうが
生まれるものは生まれる。


美術館再開43日目、7/21。

都内のコロナ感染確定者ざっくり250人。
(端数の切り上げ具合は気分です)

今日は「積丹センセイ」と珍しく2人でランチ。

センセイは当館でいちばんエラい人である。
週2回の出勤日、ランチ時は執務室にスタッフが呼ばれる。

常連は、日本近代文学と美術の作家情報であたまが満タンの同僚と、
木版画の作家であり、センセイの気に入りそうなレア古書を入手するのが趣味の事務方職員。
で、なぜかおまけで呼ばれる私。

その辺りの話にはまったく詳しくなく
いつもまったく話についていけず、
3人のおっちゃんたち(あっ失礼)の盛り上がりをただただ
黙って聴いている(ときもあるが大抵ぼーっとしている)
のが常である。

が、油断していると「最近面白い本読んだか」と
抜き打ち検査的に質問が飛んでくるので要注意だ。

今日は満タン氏と木版画氏がふたりとも休み。
そういう日のランチでは、センセイは落ちこぼれのレベルに
ちゃんと合わせてくれる(が途中から忘れる)。

食事の終わる頃、
先週、アーティスト一家のお宅にお邪魔した
ときのことを話した。

細かな内容の報告ではなく、その時間の不思議な
手ざわりのようなものについて。
そのご一家の「古い戸棚の奥」のような事柄を
思いがけず聞かせていただいた時間の、
手ざわりについて。

うんうんと聞いていたセンセイは言う。

一流の芸術家と過ごした日は、
そのときのことを忘れないように
ちゃんとノートに書いとくんだぞ。

後で使えるとか使えないとか
そういう貧乏くさいことじゃない。
とにかく書いとけ。

どのみち表に出せないものの方が多いんだ。
それでいいんだ。
俺もそういうのが何箱もある。

積丹センセイはおしゃれなカフェ飯のキッシュに
ザクザクとフォークを刺していた。

今日は写真を撮り忘れたので
先週ピカイチだった日替わりランチをあげておく。

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